2004年12月1日水曜日

はじめ(2004年12月)

連載をはじめるにあたって、ごあいさつ
 私(小出良幸)は、地質学を専門としている研究者です。地質学という学問は、耳にされることはあると思いますが、どのようなことをするのか、実はあまりよくは知られていないのではないかと思います。
 地質学という学問は、まず自然の中に入ることからスタートします。つまり野外調査をするということです。自然の景観をつくる石たちを、遠くから眺めたり、近づいて見たり、触ったり、こすったり、匂いをかいだり、虫眼鏡で見たり、時にはなめることもあります。そんな自然への接し方をしながら、さまざまなデータを集めたり、試料を採取したり、スケッチをしたり、写真をとったりしながら、野外調査をしていきます。
 野外調査によって得られたものを、研究室では、さらに詳しく調べていきます。統計を採ったり、加工したり、砕いたり、溶かしたり、けずったりしながら、大地や自然、地球の生い立ち、歴史を探っていくのです。
 地質学も他の自然科学と同様に、自然の神秘を探っていくことが究極の目的といえます。ただ、自然の中に出かけることから研究がスタートするところが、特徴といえるかもしれません。
 そうはいっても、目的によって研究のしかたは、研究者ごとに違ってきます。一人の研究者でも、新しいアイデアや、新しい手法を用いたり、新しい機器や道具を導入することによって、自然への接し方が変わってきます。そんな道具として私は新しいものに取り組もうと考えています。
 私は、最近、新しい視点で大地を眺めていくことに興味を持って、取り組んでいます。自然の中から試料を採集し、データを集めるという手法は同じなのですが、自然を見る視点を少し変更すると、同じ大地がどう見えるかということも気になり、2003年は1年かけて人工衛星からの視点で地球を見るということに挑戦しました。
 今回は、地形の数値データを使って、今まで見えにくかったものをよく見えるようにできないか、あるいは鳥になって見下ろしたら大地はどう見えるかを試してみようと考えています。
 鳥の目を持つには、ヘリコプターや気球にでも乗って、空から見ることにないます。それは個人ではできないことであります。しかし、標高の数値データをコンピュータを用いることによって、空からの視点を手軽に手に入れることができます。
 地形の標高数値データとして、国土地理院が日本全国の50mごと(メッシュと呼びます)の標高データを公開しています。しかし、大地には、50mメッシュでは荒すぎて見えない模様がたくさんあります。もう少し人間のスケールに近い細かいメッシュが必要となります。そのようなメッシュサイズとして北海道地図株式会社が持っている10mメッシュというものがあります。
 このメッシュサイズは、離れて雄大な景観を見るような感覚です。あるいは、鳥が上空数10m、数百mから大地を見るようなものとなります。地形図でいうと10mメッシュは2.5万分の1地形図で、50mメッシュは20万分の1地形図を見るような感覚です。人工衛星や成層圏を飛ぶジェット機から見る視点とは全く違った、人間にはなじみのある自然がそこにはきっと見えてくるはずです。そして、そこにはきっと地質学から解き明かせる自然の神秘があるはずです。
 標高数値データにさまざまな数学的加工することによって、今まで見えにくかった大地の素顔を、より見やすくすることができるはずです。そこに現れた表情には、きっと大地が長い年月にわたってつくり上げた自然景観の歴史や神秘、秘密が読みとれるはずだと信じています。
 地質学からみた大地の神秘を、このエッセイでは紹介していこうと考えています。さて何が見えてくるかは、私もこれから楽しみにしています。きっといろいろな自然の姿を垣間見ることができると思います。ご期待ください。

自己紹介
 私は、現在、札幌学院大学社会情報学部の教員として、地質学を専門としてます。今まで一貫して地質学を専門としてきましたし、これからも地質学をライフワークとしていくつもりです。
 地質学でも、研究手法によって色々細分されますが、私の地質学もいろいろとその手法を変えてきました。大学そして大学院での修行時代は、野外調査を中心にしながら岩石学や地球化学的手法を用い、大学の研究所では鉛を主とする同位体地球化学の手法開発とその応用をおこってきました。博物館での研究者生活を11年間続けましたが、そのとき地質学を市民にわかりやすく伝えるための科学教育というものに携わり、その重要性を体感し、科学教育にも重点を置くようになりました。
 そして現職の大学教員となって以降、地質学における研究を続けながら、その成果を市民にわかりやすく伝える方法論を開発すべく教育に取り組んでいます。さらに、研究と教育を一貫したものにするには、哲学が不可欠だと痛感し、地質哲学をなんとか確立したいと考えています。これをライフワークにするもりです。
 私自身が実験台となって、研究、教育、哲学を三位一体として合わせ持っているような理想の研究者、教育者になるべく、日々努力しています。今回のこの試みも科学教育の一環であります。

ケーススタディとして
 月一回のメールマガジンの発行とホームページの更新をおこないます。
 この取り組みは、北海道地図株式会社と札幌学院大学社会情報学部の小出良幸が連携して取り組みます。産学連携のケーススタディと考えています。産(北海道地図株式会社)がもっている技術や情報などの営利的資産と、学(札幌学院大学小出良幸)がもっている知的資産を、両者が共同することによって、新たな利用、展開、活用などの手法を萌芽的に模索するものです。しかし、北海道地図株式会社も私も、このケーススタディでは、営利を目的とせず、ボランティアとして取り組んでいます。
 役割分担としては、北海道地図株式会社が数値データ、地形解析データあるいはその画像を提供し、小出がエッセイの執筆、現地写真、地質データの提供、データ解析、作画、ホームページの作成、運営をおこなっています。

著作権
 出典が書かれていないものは、すべて北海道地図株式会社か小出良幸の著作物です。これらに対して著作権を行使しますので、無断使用をしないでください。事前にご連絡ください。ただし、私的使用のための利用、非営利目的の利用、非営利な教育や科学普及の目的のためには、氏名表示権を行使します(クレジットを示すこと)が自由に使用していただいて結構です。使用に際しては一報ただければありがたいです。

2004年12月  小出良幸