2005年7月15日金曜日

07 積丹半島:シャコタン・ブルーの海に抱かれて(2005.07.15)

 断崖から海覗き込むと、海に吸い込まれそうに感じることはありませんか。海の色が深いコバルト・ブルーならなおさらです。夏の積丹半島の海は、特有の鮮やかなブルーとなります。そんな海の色を、シャコタン・ブルーと呼んでいます。積丹半島は、シャコタン・ブルーの海に抱かれているようです。

 積丹半島は、小樽の西部にあり、北海道の南西部にあたります。日本海に対して北西に突き出た半島です。半島の周りは、断崖が多く、交通の難所となっています。でも、そんなところだからこそ、素晴らしい手付かずの自然が残されているのかもしれません。2004年9月に私は積丹半島を一周する調査に出かけました。
 台風18号は、九州をかすめて日本海に出て、2004年9月8日未明、北海道の奥尻島の沖を通過しました。日本海で勢力を強めた台風は、北海道を直撃して、多くの被害をもたらしました。台風18号の影響で、半島を周回する国道229号線が、半島の西に位置する神恵内村の大森から柵内間で、高波によって橋が壊され、途中で通行不能になっていました。この台風18号は、死者7名、行方不明者2名、負傷者120名を超える大きな被害を出しました。
 北海道には台風があまり来ないために、台風が来ると被害が大きくなります。今回は、日本海で成長するという予想に反する台風の挙動が、災害を大きくしたのかもしれません。
 私は、台風通過の直後に積丹半島に出かけました。積丹半島の西側の海岸沿いでは、高波による被害の様子を生々しくみました。この調査の予定は、台風が来る以前に立てていたものです。当初の目的は、海岸沿いで古い火山の地形やマグマが固まるときにつくるさまざまな岩石の形態など見るつもりでした。
 周回道路の通行は、遮断されていますが、そこを迂回すれば予定通り地質を見ることはできます。なにも災害直後に出かけなくてもいいのではないかという気もしましたが、私は、出かけました。それには、理由があったのです。
 災害直後の様子を、自分自身が専門とする地質学の目で見ること、そしてそれらの様子を少しでも記録して、何らかの形でアウトプットすることが必要ではないかと考えたからです。2003年の台風10号のときも、洪水直後の鵡川と沙流川の調査をそのような目的をもって出かけました。
 災害はできれば避けたいものです。でも、どうしても起こる災害もあります。その災害から学ぶことがあるはずです。ですから、私は自分の範囲で、現場の邪魔にならない範囲で、地質学的情報の収集に協力し、貢献したいと考えています。私が被災者、被災地に貢献ができるのは、ボランティアとして働くことよりも、私の身に付けた専門知識や経験、見る目、持っているアウトプットの方法を提供することではないかと考えています。
 私の専門は地質学です。直接、台風災害と関係がないかもしれません。しかし、まったく関係ないこともありません。ですから、地質学者の目で災害の地を見ると、他の分野の専門家とは違った見方や情報収集ができるかもしれません。まして、災害直後しか手に入らない情報であったら、二度と手に入らない情報であったら、という思いがあります。
 このように思うに至ったのは、次のような出来事があったからです。
 2003年の十勝沖地震で、札幌でも液状化現象がおこり、傾いた家がでたことがニュースになりました。誰か専門家が調査しているだろうと、専門家みんなが思っていました。しかし、誰も調査していないことに産業技術総合研究所北海道センターの地質学者のOさんは気づかれました。液状化現象を、Oさんは記録するために、急遽現地に赴き、調査されました。そして緊急調査の内容は、地質学者にメーリングリストとホームページを使って公開されました。
 このメールとホームページを見て、これは、非常に重要なことだと感じました。直後に専門家でないと収集できない情報を、収集して、記録に残すことは大切です。公的機関の人間としてOさんが、それを責務と考え、急遽調査され、報告されたことは、素晴らしいことだと思います。このような情報は、今度の対策に不可欠なデータとなるはずです。
 私もそのような意図で、せっかく出かけるのであれば、許される範囲で、現場を見てこようと考えています。もちろん専門家が、仕事として現地で調査をしているでしょう。しかし、上で述べたように、情報は多くの専門家が、さまざまな視点で収集しておくべきだと考えています。
 もちろん、一市民としていくわけですから、一般の人と同じように制限されているところにはいきませんし、許されている範囲で見ることになります。そんな立場からでも、災害の記録はそれなりにできるかも知れません。そして、その感想を人に話したり、学生に紹介したり、公的な場で意見を述べることもできるでしょう。
 それが私にできる災害地へのボランティア活動だと考えています。
 積丹半島の被災地の様子は、すざましく、生々しいものでした。積丹半島の西側の中央に位置する神恵内村では、大森から柵内間が通行止めで、大森大橋が高波で壊されていました。ここは、事前に通行止めにしていたため、死傷者がなったということも聞いていました。しかし、高波に破壊された家、浸水した家がたくさんありました。私が行ったときは台風後の快晴の日でした。被害受けた住民の方が、復旧に懸命でした。
 2004年12月には、神恵内の復旧道路は開通しました。安全を図るために、今では、新たなトンネルが掘られています。完成はだいぶ先のようですが、より安全な対策がなされてきたわけです。災害の教訓が活かされたのです。
 このような災害が起きたのは、台風による高波が予想以上でもあったのですが、積丹半島の周辺の海岸は険しい崖の多いことが、一番の理由ではないでしょうか。
 そのため道路の整備も遅れ、古い狭くて険しい道も多いのです。トンネルも多く、昔の人が苦労してつくったトンネルが今も使われているようなものも見られます。特に東部の海岸沿いは細い道が多く、夏ともなると交通量が多く、通行が恐ろしい道となります。雨がたくさん降ると通行止めになるところもたくさんあります。積丹半島は、札幌や小樽からも近いのですが、観光地とはいえ、開発が遅れているのです。
 積丹半島の海岸は、険しい海岸地形で切り立った崖が多く、崖崩れがよく起こる場所でもあります。1996年2月の古平町豊浜トンネル付近の大規模な崩落は、今も記憶に残っているものです。激しい降雨による通行規制も、雨による崖崩れの被害を事前に防ぐことが目的です。
 なぜ、積丹半島の地形が、海岸から切り立ったようになっているのでしょうか。同じ北海道の日本海側海岸でも、石狩湾では砂浜が広がるようなところもあります。何がその差を生んでいるのでしょうか。
 北海道の南から見ていくと、熊石町から大成町にかけての海岸、瀬棚町から島牧村の海岸、寿都町の海岸、岩内町の雷電の海岸、雄冬の海岸と、転々と険しい海岸があります。そのどれもが海に突き出るような地形となっています。北海道の日本海側の南西部で切り立った海岸線は、いずれも新第三紀や第四紀に活動した火山でできているということが共通しています。積丹半島でも、全体が新第三紀の火山があり、中央部には余別岳や天狗岳の第四紀ころに活動した新しい火山があます。
 一方、なだらか海岸地域は、新しい時代に形成された堆積岩でできていたり、大きな川の河口周辺に平野部に多く見られます。同じ堆積岩でも、松前の海岸では、古くて硬い地層であるために、険しい崖となっています。もちろん望来海岸のように新しい堆積岩でも切り立ったところがあり、例外があります。まあ、それはそれで理由があるのですが。
 新しい時代の火山は、できてあまり間がありません。もともと現在の海岸付近で活動したものですから、火山自体が侵食を受けやすい地域にあます。海の波の作用で激しく侵食されます。火山では溶岩や貫入岩だけでなく、火山噴出物や砕屑物など軟らかい堆積物も含まれています。すると、軟らかいところと硬いところでは、侵食の程度が違っていきます。軟らかいところは激しく侵食されます。硬いところは侵食を免れて、できたまま切り立った荒々しい状態の地形として残ります。
 積丹半島の先端には、西に神威岬、東に積丹岬があります。いずれも険しい崖ですが、火山噴出がたくさん含まれている地層(野塚層と呼ばれています)があります。この新しい地層は、半島の西部の海岸ではよく見られるものです。堆積岩でできた地域は比較的やわらかいので、海の波による侵食を受けます。その結果、新しいものでは海食崖、古いものでは海岸段丘などの地形ができます。海岸段丘は積丹半島の西側で、海抜50mあたりによく見られ、最後の間氷期のものであることがわかっています。弱いがために侵食を受け、段丘と海食崖で険しい崖となっています。
 このような地質の背景が、積丹半島の海岸の景観をつくっています。険しい崖は交通を困難にしています。しかし、その侵食が生み出した奇岩や荒々しい地形が、素晴らしい景観をつくっています。自然の荒々しさを味わう観光地として人を集めています。
 積丹半島を囲む海は透明感が高く、魅惑的なブルーとなっています。このブルーは、シャコタン・ブルーと呼ばれます。積丹半島は、シャコタン・ブルーの海に抱かれているようです。海と大地の織り成す景観が、神秘さを増します。

・積丹マグロ・
積丹半島は、きれいな海を背景にした漁業が盛んで、
泊まったところは海の幸がいろいろあって
それもおいしかったです。
とりわけマグロの刺身には感動しました。
宿のご主人の話では、積丹沖でとれたもので、
積丹マグロと呼んでいました。
冷凍ではなく生なので、よりおいしく食べました。
たった3切れしかありませんでした。
でも、これくらいがいいのでしょう。
堪能しました。
北海道だけではないのですが、
海沿いの民宿や旅館に泊まると、
海の幸が豊富で素晴らしいです。
しかし、シャコタンブルーの海で獲れたマグロはやはり格別でした。

・サケ・
朝、旅館の前を散歩していると
多くの釣り人が、河口付近の海で釣りをしています。
何をつっているの見ていると
どうもサケを釣っているようです。
川ではサケは禁猟で捕れないのですが、
遡上前の海は、禁猟になっていないようです。
川にかかる橋から見ると、サケが何匹も川の中に見えました。
でも、それはまだ遡上のピークではないのでしょう。
北海道の田舎のきれいな川に秋に出かけると、
多くの場所でサケの遡上を見ることができます。
もちろん積丹半島でも、何箇所でもサケを見ることができました。
サケは台風の影響を受けなかったのでしょうか。

・北海道の自然・
ついつい話題が秋のものになりました。
今は夏ですから、夏の話をしましょう。
今度の連休に私は、富良野を中心に3泊4日で調査をします。
家族も一緒です。
富良野はテレビドラマの舞台ともなっているので、
田園風景が素晴らしいところです。
私の目的は、観光名所よりも、
地質学的に興味のあるところを見ることです。
石狩川支流の空知川と幾春別川の調査と
十勝岳の火山が目的です。
北海道は、なんといっても、春から秋にかけてが、いい季節です。
こんな時期は、北海道に住んでいてよかったとつくづく思います。
もちろん、時には今回紹介したような災害もあります。
それに、冬の寒さや雪も、北海道の自然です。
すべて丸ごと北海道の自然です。
地域の自然とは、いいことも悪いこともすべて含めて考えるべきです。
北海道の冬の厳しさがあるから
より一層夏のありがたさが味わえるのだと思います。
さて、北海道の夏はまだまだ続きます。
もっともっといいところを味わっていきましょう。