2007年11月15日木曜日

35 白神山地:静寂の湖面に映りこむ動乱(2007.11.15)

 秋田県の白神山地の麓に十二湖というところがあります。多数の湖の中に青池と呼ばれる不思議が色をした池があります。その静寂に包まれた湖面に映る景色には、動乱が映りこんでいました。

 今年の夏に、白神山地の近く出かけました。白神山地へ山登りをしたり、山奥まで入ったわけではありません。白神山地から少し外れた山麓に十二湖というところがあります。そこに出かけました。青森県深浦町にある十二湖に私が訪れた目的は、地滑りでできた湖沼群と日本キャニオンをみることでした。青池と呼ばれる池は、名前の通り青く透き通った不思議な色をしているそうなので、その池もみたいと思っていました。
 地滑りは、1704年に起こったマグニチュード7の能代大地震によって、山が崩壊(山津波とも呼ばれるもの)したためだと起こったとされています。地滑りが、川をせき止め、多数の池を形成したと考えられています。池の数は、33(数え方によっては31)にのぼります。
 日本キャニオンは、1953(昭和28)年、当時の国立公園審議委員で探険家でもあった岸衛が、その景観を見て、アメリカ合衆国にあるコロラド山地のグランドキャニオンに見立てて名づけたものです。これは、少々名前負けしていてスケールははるかに小さいものです。白い酸性凝灰岩(流紋岩から真珠岩質)が侵食されつつある崖が印象的です。この崖は海からも眺めることができ、昔から、海上通行の目標にもされていたようです。
 白神山地には、秋田県と青森県にかけて広がるブナを中心とした原生林があります。1993年に、法隆寺や姫路城、屋久島とともに、白神山地は日本で最初に世界遺産に登録されました。世界遺産の指定地域にあたるのは、7割が青森県にあります。
 世界遺産には、文化遺産と自然遺産、複合遺産(日本にはありません)がありますが、白神山地は屋久島と共に自然遺産に区分されます。白神山地は、世界遺産登録基準の9項の「陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの」にあたります。
 人手のほとんど入っていないブナの原生林が白神山地の源流域にあます。その広さは、世界最大級といわれています。ブナ林の内には、多様な植物が共存し、それらの植生に依存した多様な動物がいます。ブナは木へんに無と書きます(漢字の第二水準にはありません)。ブナは落葉樹で、寒い地方では低地に、暖かい地方では高地に育ちます。北海道の黒松地方が北限といわれています。このような自然のままの生態系が今も手付かずのままで残っていたのです。
 1万年前の最終氷河期が終わり、8000年前ころには、白神山地にはブナ林が形成されていたことがわってきました。現在の日本で、それも本州でブナの原生林が残っているのは、不思議な気がします。でも調べていくと、原生林が残ったのには、それなりに理由があったようです。
 ブナは、大木になるのですが、シイタケ栽培や食器などの加工には利用されていたのですが、腐りやすく狂いが生じやすいので、建材として用いられることはあまりありませんでした。ですから昔から木なのですが木材として利用できないことから、「木へんに無」という漢字があてられたという説があります。建築用材に適さないことから、ブナは伐採を免れる条件があったのです。
 ブナは寿命が短く200年程度とされています。ですから、ブナの生育に適した山を放置しておけば、比較的短い期間で倒木更新などの世代交代をする原生林となります。ブナの森には、ブナ自身の落ち葉や倒木が栄養となり、他の動植物の養分や住みかなどとして利用し、多様な生態系を生み出します。
 白神山地は、焼く9800~6400万年前(白亜紀)の花崗岩類からできています。1600万年前~500万年前頃(中新世)の堆積岩(凝灰岩、泥岩、砂岩)とそれを貫く火成岩類(流紋岩、石英閃緑岩等)から構成されています。
 このような白神山地の岩石類は、不安定で、そのうえ隆起が続いているため、崖崩れが起こりやすくなっています。伐採用の林道をつくっても、崖崩れのためにすぐに使えなくなってしまいます。また、この地域は冬には半年間も雪に埋もれるため、大規模な林道建設も難しく、開発が進みにくいところでもありました。
 そのようないくつかの要因が組み合わさって、白神山地ではブナの原生林が残ったと考えられています。白神山地は、古来から行われてきた集団で狩猟をおこなうマタギだけが利用するの山となっていたのです。
 十二湖付近は、奥の山地(東側)が中新世の火山岩類(玄武岩から安山岩)ができており、断層に境されて、西側には1000万年前の赤石層と呼ばれる堆積岩があります。主に黒色の泥岩(硬質頁岩と呼ばれています)からできていますが、下部に300mほどの厚さを持つ凝灰岩(十二湖凝灰岩部層と呼ばれています)があります。これら弱い岩石が崩れて、地滑りとなったと考えられます。
 1970年代になると、ブナは楽器の材料として利用されるようになり、白神山地の原生林にも目がつけられました。1978年に白神山地の中央を通る林道が計画され、1982年に秋田県側から工事が開始されました。工事の直後から白神山地でひんぱんに崖崩れが起きはじめ、被害が出てきたため、林道建設反対運動が起こりました。その結果白神山地は、1990年には林野庁が森林生態系保護地域に指定、1993年12月11日には世界遺産に登録、2004年3月31日には国指定白神山地鳥獣保護区となりました。その結果、白神山地のブナの原生林と自然は守られるようになりましたが、この地のマタギの伝統がなくなってしまいました。
 名前の通り青池は、透明で青く澄んだ不思議な色をしていました。湖面に映る木々の反射と、高い透明感で池に沈んでいる木々が見えることが、さらに神秘さを増しています。しかし、その静寂な景観の中には、地滑りという激しい歴史がありました。それの激しさを、静寂の湖面や日本キャニオンから感じている人はいるのでしょうか。

・十二湖・
青森県の津軽半島の青森県五所川原市(旧市浦村)に
十三湖というところがあります。
十二湖とは、文字の上では湖の一つ違いですが
十三湖は十三湊(とさみなと)が語源となっており、
直接の関連はありません。

・サンタランド・
深浦町ではサンタランド白神という施設に泊まりました。
名前の通りサンラクロースにちなんだ施設でした。
なぜ、青森でサンタなのか不思議に思いました。
これは、深浦町(旧岩崎村)が
フィンランド国ラヌア郡と姉妹都市協定を結んだためです。
ラヌア郡はサンタクロースの故郷とされているところなので、
姉妹都市の締結を記念して、サンタランドが建設されました。
私がいったは8月の一番暑い時期でしたが、
施設は運営されていて、コテージに泊まることができました。