2009年10月15日木曜日

58 青島:めまいのする時の流れ

 青島は、古くから名勝として宮崎でも有数の観光地です。今でもそれは変わらず、多くの観光客が訪れています。私も宮崎に行ったとき、青島にいきました。もちろん観光ではなく、地質を見るためです。そこでは流れる時間のスピードの違いをみることができました。

 9月に宮崎県を調査で1週間ほどかけて回りました。そして最終目的地は、青島でした。青島では、島の周囲の海岸に分布する地層をじっくりと観察することでした。1週間の調査期間中、天気に恵まれ、ほぼ予定通りに調査をすることができました。青島の海岸の調査では、最後に1日あてていたのですが、午前中は満潮なので、朝と干潮時にあたる午後に島を2週して観察をしました。一日、天気がよったために、午前中別のところで海岸線を結構歩いたためでしょうか、午後には暑さでへとへとになりました。
 青島より南の海岸線沿いには、青島でみられるのと似たような洗濯板状になった地層がでています。その中でも特に青島は、洗濯板状の地層が広がっていることで有名です。そのような、洗濯板を各地で見ながら青島にたどり着きました。
 青島は、亜熱帯性植物群落が国指定の特別天然記念物に、さらに周囲の地層は「隆起海床と奇型波蝕痕」として国指定の天然記念物となっています。地層の「隆起海床と奇型波蝕痕」という文言は少々古めかしい感じがします。それもそのはずです。昭和9年に天然記念物に指定されていますので、その時代の地質の用法だったのでしょうか。
 現代風のいい方をすると、「差別浸食海蝕台の隆起海岸」とでもなるでしょうか。その意味は、砂岩泥岩の繰り返し(互層といいます)が、海岸線沿いにでていたものが、波の浸食を受けて、平らな海蝕台になっていきます。海蝕台は全体としては平らなのですが、硬い砂岩部は浸食されにくくて残り、軟らかい泥岩部が選択的に浸食されていきます。このような浸食の程度の違いを差別浸食といいます。それが洗濯板のような景観をつくっていきました。その後、海岸一帯が隆起したため現在のような、満潮時でも岩がのぞき、干潮時には島の周囲を取り囲むように洗濯板がでるようになりました。
 このような景観を表す言葉を説明するだけで、青島の起源を示すことができます。ただし、他にはいろいろな地質学的背景があります。
 青島の洗濯板を構成している地層は、宮崎層群と呼ばれるものです。形成された時代は、900万年前から150万年前ころです。宮崎県の海岸沿いに広く分布する地層で、宮崎平野を構成している地層です。この地層のさらに下は、有名な四万十層群があります。
 四万十層群より新しい地層で、宮崎層群と似たようなでき方をしたものは、静岡の掛川層群、高知の唐浜層群、沖縄本島の島尻層群など、日本列島の太平洋側に広く見られます。
 宮崎層群は、全体として似たような構造をもっていて、西から東に向かって、古い時代から新しい時代になっています。下から上に向かって地層を構成する堆積岩の粒子が、粗いものから細かいもの、細粒から粗粒、そして細粒、粗粒へと変化します。このような岩石の粒子の変化や構造の変化から、海進が2度渡って起こっていることが読み取られています。
 宮崎層群の分布地域を見ると、北部と中部、南部で堆積環境が変化していることが分かっています。北部の堆積環境を妻相、中部を宮崎相、南部を青島相とよび、それぞれいくつかの地層群(層や部層に細分されています)からなっています。
 青島相全体としては、2000メートル以上に達する地層からできています。青島相の中で青島は、最上部の地層(戸崎鼻部層と呼ばれています)からできています。つまり、一番最後にたまった地層からできています。戸崎鼻部層の上部は海の中になるので、調査できず詳細は不明です。また、時代もまだ正確に決まっていませんが、下にある内海の環境でたまった内海部層の最上部は600万年前という年代がわかっています。それより新しい時代となります。
 青島の出ている戸崎鼻部層は、比較的規則正しい、砂岩と泥岩の繰り返しの互層からできています。そして、断層によってその互層が乱されています。砂岩には、亀甲状や、幾何学的な割れ目がいろいろあったり、団塊(ノジュールと呼ばれる)がたくさんあるところもあります。同じような互層の繰り返しにみえますが、よく見るとそれぞれ個性があります。
 青島の洗濯板は、干潮になると広く地層が見え、満潮時には、浸食に強い砂岩の一部が見えているだけです。訪れる時間が違うと、広さや景観に大きな違いがあり、なかなか見ごたえがあります。
 また、青島の緑も、小さな島にもかかわらずうっそうして深いものです。私は、暑い日の息抜きの日影として重宝しました。そのようなうっそうとした植物を掻き分けるように、青島神社が立てられています。確かに、こんもりとした緑の丘とその周囲を囲む洗濯板のような地層群は、不思議な景観をもっていますので名勝とあるのもうなづけます。
 そして、もう一つおもしろものがありました。それは、青島と洗濯板の地層の間には小さいながら砂浜が取り巻いています。その砂が貝殻だけからできているところがいくつもありました。貝殻砂(shell sand)と呼ばれているものです。周りは地層ですので、本来であれば、堆積岩が砕かれた砂からできているはずなのですが、貝殻ばかりからできているところがあちこちにあるのです。青島は、貝殻だけが集まる仕組みがどうも働いているようです。自然の妙です。
 調査の折に、貝殻砂を見つけたとき、そのだけの量がたまるのに、どれほどの時間が流れたのかと思ってしまいました。暑い日差しの中を歩いているせいでしょうか、めまいを感じてしまうような時間の流れを感じました。しかし、貝殻よりももっとないが時間の流れが、周りにはあります。地層の堆積という地質現象は、繰り返しながらも、時間とともに変化があります。固結、浸食、隆起などの地質過程を経て、最終的に、大きな変化として現在に至りました。、そして貝殻の砂も植生も、まして神社も、地質に流れてい時間と比べれ、あっという間の出来事かもしれません。

・めまい・
調査最後の日程で疲れがたまっているためしょうか。
それとも、単に暑さにばてていただけでしょう。
午後の調査で青島の周囲を歩いているとき、
めまいを感じるような思い抱いていました。
それと地層や砂に思い馳せているせいでしょうか。
時間の流れにめまいがしたように感じました。
単に年齢による老化、
あるいは、運動不足による疲労なのかもしれませんが。

・秋・
北海道は短い秋の真っ最中です。
朝夕の時間帯にはストーブをつけるようになりました。
通勤途中に見えている手稲の山並みでは、
何度か冠雪をしているのをみました。
初雪前に飛ぶ雪虫(アブラムシの仲間)も
天気のいい日には見られます。
そんな秋真っ盛りの北海道ですが、
行く秋を惜しみながら、
秋を満喫しています。