2010年1月15日金曜日

61 都井岬:残暑のオリストストローム

 宮崎県南端の都井岬は、野生馬やソテツが有名です。都井岬を形成している岩石には、付加体と呼ばれる列島形成のメカニズム、オリストストロームという大規模な海底地すべりが記録されていたのです。残暑の残る南国にみた大地の営みを紹介しましょう。


 宮崎県の南端に都井(とい)岬があります。都井岬は、付け根から先端まで1.7kmほどの幅で、約3.5kmほどの長さあります。付け根から岬は南向きに伸びますが、真ん中で折れ曲がって南東に向かいます。ひらがなの「し」のような形をしています。小さな岬ですが、内部は標高295mに達する丘が連なり、深く刻まれた河川の地形がありますが、なだらからな景観をしています。ところが、半島の海沿いは、急激に切れ込んで、険しい崖に囲まれています。そのため、周囲とは閉ざされた環境となっています。
 都井半島は、幹線ルートからは外れていますが、日南海岸国定公園の一部にもなっており、小型の岬馬の繁殖地とソテツの自生地として有名で観光地になっています。
 岬馬とは、「御崎馬」とも書かれ、日本の在来の野生馬が繁殖しています。岬馬は、1953(昭和28)年に「岬馬およびその繁殖地」として天然記念物に指定されています。そもそもは、江戸時代に高鍋藩が軍用馬を飼育するために、放牧を始めたものが、後に野生化して今日にいたっています。
 ソテツ(漢字では蘇鉄と書きます)は、亜熱帯に生育する植物ですが、都井岬が北限の自生地となっています。1921(大正10)年に天然記念物に、1952(昭和27)年には「都井岬のソテツ自生地」として特別天然記念物に指定されています。
 交通、地理的には観光客の訪れるような地の利はないのですが、このような名所があるため、日南海岸の観光には欠かすことのできない地となっています。私が訪れたのは、昨年9月でした。昼に都井岬につき、ゆっくりと半島内を見て回ることができました。
 都井岬は、日南層群と呼ばれる堆積岩からできています。日南層群は、宮崎平野をつくっている宮崎層群(新生代の後期中新世から前期鮮新世に堆積)より古い時代の地層で、新生代の後期漸新世から前期中新世に堆積しています。日南層群は、四万十層群に対比される地層です。
 四万十層群に相当する地層は、房総半島から関東、東海、紀伊半島、四国南部、九州南部、そして沖縄本島まで、長さ2000kmほどにわたって分布している地層です。四万十層群に類する地層が分布する地帯を、四万十帯と呼んでいます。
 四万十帯は、主に中生代の白亜紀から新生代のパレオジン(かつての古第三紀)にかけて堆積した地層で、付加体と呼ばれている地質体です。
 付加体とは、海洋地殻やその上に深海堆積物のチャートや深海粘土、あるいは大陸から由来した砂や泥が、海溝で大陸側に押し付けられ、付け加わり、盛り上がった地層群のことです。そのため付加体には、他の堆積岩にはみられないような、地層面に平行にはしる断層群があったり、時代層序の逆転が起こっていたり、異質な岩石群が混在するなどの特徴を持っています。
 時代層序の逆転とは、上に重なっている地層群は先に沈み込んだときにはがれたもので、その下につぎつぎと新しい時代の地層群が付加していくことによってできていきます。同時期に付加した地層では、下が古く上が新しいという正常な層序が形成されます。しかし、断層(時にはぴったりとくっついて見えないようなものもあります)で境界されて、下には別に時代に付加した時代の新しい地層群がでてくることになります。このような時代の逆転現象が繰り返し起こっていきます。四万十帯の地層では、太平洋側に新しい時代の地層が分布します。これは、付加体固有の特徴で、通常の地層では見られない構造です。
 九州では、四万十層群に対比される地層は、北から佐伯層群、蒲江層群、北川層群、日向層群などに分けられています。日南層群は、一番新しい時代に付加したものとなります。
 都井岬周辺の日南層群では、オリストストロームという構造が特徴的にみられます。オリストストロームとは、堆積構造の一種です。硬い岩石の塊(ブロック)が柔らかい岩石(マトリックスと呼ばれます)の中に取り込まれるという産状をもっています。形成時にブロックはすでに固まっている岩石として振る舞い、マトリックスは軟らかい未固結の堆積物として流動的な振舞いをします。もちろんそれは、形成時、形成場での話で、現在ではすべてが固まって岩石となっています。
 オリストストロームは、沈み込み帯付近で起こる大規模な海底地すべりでできると考えられています。オリストストロームが広域に繰り返しみられる地層があるということは、付加体という形成場を証拠付けることとなります。
 このような沈み込み帯という堆積場を教えてくれる地層が、都井岬に周辺でみることができます。岬の突端には御崎神社があります。その周辺には、海岸ぞいの崖があります。そこでオリストストロームが観察できます。神社の周辺にはソテツが自生しています。
 残暑の残る昼下がり、御崎神社を私は訪れました。この神社までくる観光客はまばらで、日差しの暑さだけが印象に残りました。都井岬は、観光地ですが、観光コースとしては、宿泊する場とはなりにくいようで、泊まった宿(公共の宿でした)には、宿泊者は私一人しかいませんでした。しかし、宿の部屋からは、雄大な日没が見ることができました。
 私にとって都井岬は、暑さとともに日没が記憶に残っています。そして、付加体から想像できる大地の営みの悠久さも印象に残っています。

・継続したいのですが・
正月はすでに過ぎ、新年の挨拶はしませんが、
本年も本エッセイをよろしくお願いします。
前回、4月以降このエッセイの発行が
中止になるかもしれないと書いたのですが、
読者の方から、継続して欲しいというメールをいただきました。
継続したいの山々なのですが、
そうもできない事情が起こるかもしれません。
それは、4月以降1年間愛媛県の山奥に滞在します。
その地は、インターネットの通信環境が
現状より悪くなります。
メールマガジンの発行自体は多分問題ないのですが、
大きな画像を多数、ホームページに
アップロードしようとするとき、
どの程度のスピードになるかが問題となります。
このエッセイのホームページは、
景観写真や地形図、衛星画像、地形解析などの
画像を多用しています。
画像を用いて、市民の方々に
分かりやすく地質を紹介したいというのが、
本来の目的であるからです。
メールマガジンとホームページが連動して
はじめて、その目的が達成できるものです。
ですから、4月になって、現地にいって通信状況を確認して、
継続の可否を判断したいと思っています。
それまで、本エッセイは続けていきますので、
よろしくお願いします。

・地層累重の法則・
地層は、本来のでき方を考えればわかるのですが、
海底に土石流などで、土砂が押し流されてくると
一枚の地層が形成されます。
そして時間を置いて、次の土石流が起こり、
先ほどの地層の上に新しい地層ができます。
この繰り返しが地層の形成のメカニズムとなります。
その結果、地層では、下が古く上が新しい
という規則性ができます。
これを地層累重(るいじゅう)の法則と呼ばれ、
地質学では、非常の基本的な原理となっています。
付加体ではその原理が破られるのです。
この発見は地質学者に衝撃を与えました。
しかし、今では、その層状の逆転が付加体の特徴として
大地の歴史の復元に重要な役割を果たしています。