2010年9月15日水曜日

69 剣山:断層の谷

 四国山地は、地図で見る以上に険しい山並みです。しかし、ところどこに山地を横切る道路があり、交通の要所になっています。また、道は険しいのですが、山脈に並行する道もあります。道路を使えば、山懐深くに分けるいることができます。そんな道を利用して、四国第二の高さを誇る剣山に出かけました。


9月6日から11日まで、四国を東西に縦断するコースで調査に出ました。特に四国の中部と東部の地質を見ることが中心となりました。今回のルートは、祖谷(いや)から国道439号線を使って剣山(つるぎさん)の近くの見ノ越まで達しました。見ノ越からロープウェがあり、手軽に剣山の山頂に登ることができます。その後、見ノ越のトンネルを抜けると国道438号線を吉野川支流の穴吹川を下ります。国道は、途中からで川井峠を越えて鮎喰(あくい)川を下ります。行きは、四国山地を東に向かうコースを選びました。
国道とはいいながら狭い道も多く、対向車がきたらどうしようかと思うようなところも各所にありました。ただ、夏休みも終わり、紅葉にも早い時期の平日、それも台風の影響で、道はがらがらに空いていました。ですから、景色を堪能しながらのんびりと走ることができました。一人での調査を心いくまで楽しみました。旅館も一人かもう一組いるような状態でくつろげました。ただ、台風の雨で、なかなか思うように調査はできませんでしたが・・・。
四国の地質体は、東西に延びています。ですから、今回の調査は、四国の地質の分布と並行に進むことになります。
四国では、東西方向に大きな地形(大きな山地や大きな河川)ができています。大きな地形の形成には、中興構造線や仏像構造線などの大断層帯が重要な役割を持っています。中央構造線と仏像構造線にはさまれた地帯が上昇して、四国山地を形成しています。大きな河川の流れも、構造線に沿っていて、その流れの方向が強く規制されています。ただし、いくつか南北に走る構造的な弱線もあり、そこが河川の通り道となっています。吉野川、仁淀川、四万十川などの大きな河川の屈曲部は、南北に流れるところがあります。ただし、四国山地の南北の河川部は、大歩危や祖谷渓のように険しい谷となっています。
そんな険しい四国山地の中心部に、剣山は位置しています。幸いなことに、剣山の近くの峠の見ノ越を通る国道があります。それが、今回通り抜けたコースです。
西の祖谷側の道は川沿いにあり、峠の近くで一気に道は斜面を上りますが、川沿いをなかり高い標高までたどります。川沿いには、点々と人家がありますが、道路も整備されていないところが、まだたくさん残されていて、観光化されていない田舎の風景を保っています。こんな景観は私が好きなものです。
見ノ越をとおり東側の穴吹川の道に入って驚きました。峠を越えると、人里離れた標高の高い谷の斜面に道路があります。九十九折の斜面を下り、沢沿いに降りるまで、しばらくは人家がありません。峠を越えた山の奥深く、剣山の山深い斜面で、防災工事がいくつも谷でなされています。人里はなれたところで、大規模な工事がなされています。私が下ってきたときも、雨の中で工事が進められていました。
なぜ、このような山奥で防災工事がなされているのでしょうか。一つには、この地域の地質が関係しているようです。
四国山地を構成している地質は、中央構造線の南側、山地の北側に当たりますが、そこには三波川変成帯があり、南側(仏像構造線の北側に当たる)に秩父帯があります。両帯の間には、分布は連続していないのですが御荷鉾帯があります。剣山の周辺は、秩父帯に属しますが、そのすぐ北には御荷鉾帯の大きな岩体が接して、谷の北側にレンズ状に分布しています。
四国地方の御荷鉾帯の岩体は、レンズ状に断続的に分布していって、剣山周辺は大きな岩体の分布地域です。中央から西部にかけても大きな岩体があり、あとは小さいものが、各地に見られます。御荷鉾帯の岩石は、いろいろな岩石が混じっていますが、海洋地殻を構成していた岩石類(オフィオライトと呼ばれています)から構成されています。オフィオライトとは、玄武岩や斑レイ岩、カンラン岩、蛇紋岩とチャートや赤色頁岩などもあります。
剣山の北の御荷鉾帯の岩石は、変成作用を受けて片岩状になっているオフィオライトからなります。玄武岩が海底で噴出して壊れたもの(ハイアロクラスタイトと呼ばれます)を主としていますが、玄武岩や斑レイ岩、カンラン岩、蛇紋岩なども見られます。また、岩石の化学組成や鉱物の特徴から、海洋地殻の岩石だけでなく、海山を構成していた玄武岩(海洋地殻の玄武岩とは性質が違います)の部分も混じっています。
御荷鉾帯と秩父帯の境界、つまり国道の北側の急斜面は、鮎喰断層と呼ばれています。
祖谷側は道が沢沿いであるのと、断層が谷の少し上を走っているようです。そのため、断層による地すべりも少ないのかもしれません。なにより、人家や民有地があると、工事が大変になります。また、観光地もあるので、いろいろ配慮が必要になるのでしょう。
穴吹川側の谷は、断層の走る場所なのです。国道は、谷の上部を走っています。断層の谷は、崩れやすくなります。だから、砂防ダム、法面(のりめん)改修などの防災措置なのでしょう。そして、人家が付近にないため、工事も進めやすいのでしょうか。
人が暮らしているのに自然のままの谷筋と、人が住んでいないのに人手が加わった谷筋と、まるで人間と自然の関わり方の両面を見るような、コースになりました。そこには、どんな理由があったのか本当のところは分かりませんが、自然との共存はなかなか難しい問題を孕んでいることを感じさせる。そんな事例かもしれませんね。
帰りは、行きより南のコースで、秩父帯から高知で四万十帯にはいり、四万十帯のメランジェを見る予定でした。
今回の調査で、心残りがあります。剣山に登ろう(半日で登れる)と峠の近くに宿泊して、2日間の余裕を持って調査をしていました。ところが、台風のため2日間とも雨でだめでした。それほど激しい雨ではなかったのですが、景色を眺め、写真を撮りたかったので、登るのは断念しました。また、メランジェも、時間的に余裕がなく見ることができませんでした。次のチャンスがあれば思っています。

・行き残し・
今回の調査では、最終日の大きな公共の宿を除くと、
宿は一人か、もう一組いるようながらがらの状態でした。
観光シーズンからずれ、
観光地から外れたところが多かったので、
なかなか快適な旅行となりました。
私は、調査には充分な余裕を持って出かけるのですが
最後の日は、時間が足りずに、後半をはしょりました。
はしょったところは、比較的近いので
別の機会つくって出かけたいと思っています。
このようにして、積み残しの行きたいところが、次々とでてきます。
近隣の町で行きたいところも、まだいくつもあります。
まあ、優先順位を考えて出かけましょう。

・秋風のころ・
今週になって、急に秋めいてきました。
夜、寝るときも、部屋の窓も戸も閉めて寝ましたた。
タオルケットも寒そうなので肌かけに変えました。
それでちょうどよかったのです。
このまま涼しくなるのとありがたいのですが、
どうなることでしょうか。
このまま夏も終わりかと思うと、
月日の経過を惜しまれる気がします。
その季節にしか楽しめないことがあります。
地域の風物も月日とともに流れていきます。
流れの現場に立ち会って、
目撃して体感しておきたいことがあります。
そんな焦りの気持ちもあるのです。

・だいち・
陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)のデータを用いた
「高精度土地被覆図」が公開されました。
私の専門ではないのですが、
Google Earth APIも公開されています。
GeoTIFF形式のデータもあります。
HPに今回の地域を掲載しますが、
50mの解像度をもっていますが、
どのような利用がなされるのでしょうか。