2012年3月15日木曜日

87 手結:秩序の困惑


土佐湾に面した高知の海岸線はいびつなところがいくつかあります。手結のメランジュはそんないびつな場になります。メランジュにはそれなりの秩序があるのですが、困惑を感じます。秩序に安心を感じる整然層とはいいコントラストになります。付加体は、相反する気持ちが湧き起こる場でもあります。

四国は大雑把に見ると、少々いびつですが、長方形になっています。高知県は四角形の下(南)側にあたります。太平洋むかって、右下(南東)と左下(南西)の角にあたるところが、飛び出して岬になっています。西が足摺岬、東が室戸岬になっています。岬の先端には、マグマが活動してできた深成岩があります。これらの不思議なマグマの活動については、以前にも紹介しました。四角形の底辺の真ん中が高知市にあたり、海岸線は内側にくぼみ、弧を描くように湾曲しています。土佐湾です。
土佐湾の奥、高知市付近では、なだらかな弧を描いた海岸が続くところに、ところどろこにギザギザした出っ張った海岸線があります。高知市より東側には、香南(こうなん)市の佛岬(ほとけみさき)から住吉漁港にかけてが出っ張って、ギザギザした海岸線となっています。西側は横浪(よこなみ)半島もギザギザしています。このような出っ張りは、地質の違いに由来しています。
今回はその香南市のギザギザの地形の地域の紹介です。
佛岬と住吉漁港の間に手結(てい)岬があり、その地名からとった手結メランジュが有名です。横浪もメランジュが分布するところとして地質学では有名です。両者は、もともとは連続していたものと考えられていますが、高知市の沖で、メランジュは海岸に消えます。
手結メランジュは、四万十帯の北帯に属します。四万十帯には、整然とした地層(コヒレント層ともよばれる)とメランジュの部分が混じっています。このような地質体は、付加体とよばれ、列島固有のものです。
四万十帯は、これまでエッセイに何度もでてきたのですが、概略を見ておきましょう。
四万十帯の北側(内陸側)には古い地層(白亜紀から)があり、南側(海側)には新しい地層(古第三紀から)があり、海に向かって年代が若くなってきます。北を北帯、南を南帯に区分し、両者の境界は断層帯となっています。断層帯は、高知西部(幡多半島付近)では中筋(なかすじ)構造線、高知東部(室戸半島付近)では安芸(あき)構造線と呼ばれています。両者の間には土佐湾があるので、定かではないですが、連続している構造線だと考えられています。あわせて安芸・中筋構造線と呼ばれることがあります。
北帯には主に白亜紀の地層とメランジュが多数あり、南帯には主には新生代の整然層が多くなっています。高知の東の四万十帯北帯は、古い新荘川層群と新しい安芸層群とに区分されています。安芸層群は、砂岩泥岩の繰り返し(互層)の整然とした地層と、何列かのメランジュが見られます。手結メランジュは、それらのメランジュ列のひとつにあたります。
付加体は、海洋プレートの沈む込みにともなって陸側にできる地質体です。沈み込み帯はプレートがぶつかるところですから、圧縮する力が常に働いている場です。地層に圧縮が起こると、陸側プレートの先端には、スラストと呼ばれる低角度の逆断層が形成されます。付加体の先端には、規則正しく瓦が並らぶようにスラストができることから、覆瓦(ふくが)スラスト(implicate thrust)のゾーンができます。
覆瓦スラストの下には水平方向の断層(decollement;デコルマあるいはデコルマンと呼ばれます)ができます。デコルマンの上には、内部に多数の覆瓦スラストをもった付加体の「スライス」ができます。もっと圧縮が起こると、デコルマンがより深部に移動して、2段目の付加体の「スライス」ができます。この2段目の「スライス」の先端でも新たなスラストができ、堆積層の短縮と付加が起こります。このような付加体の「スライス」の重なりをデュープレックス(duplex)と呼んでいます。デュープレックスにより、地層の重なりが起こります。
さらに重なりが生じます。圧縮の力によって、それまであったデュープレックスした付加体の「スライス」を大規模に切る大きなスラストができます。このスラストは、今までの覆瓦スラストやデコルマン、デュープレックスなど比較的秩序だった繰り返しの断層を、大規模に切ることになります。それまでのスラストの序列を乱すことから、序列外スラスト(out of sequence thrust)と呼ばれています。
以上のように付加体の地質は、秩序がありますが、非常に複雑なものであります。それに、まだ完全に解明されていないところもあります。ただ、付加体の厚く見える地層は、圧縮場でできたスラストによって同じ地層が何度も繰り返しているということです。スラストには、その境界部が見えないようなものもあり、非常に解析しづらいところもあります。
地層の繰り返しがることを証明するためには、化石によって、時代が繰り返していることを示す必要があります。非常に根気のいる作業です。高知県はその研究が、非常によくおこなわれた地域でもあります。
さて、付加体のもう一つの特徴であるメランジュです。混在岩などと呼ばれることもあります。決まった起源のある岩石ではなく、その起源は問いません。通常の岩石とは明らかに違います。小規模なものはメランジュとは呼ばず、大規模で地質図に記載されるものに対してメランジュを用います。メランジュは、付加体だけにあるのではなく、大地の運動が激しい所でみられます。地すべりや土石流、断層運動などによるものがあります。
メランジュは、付加体に特徴的にみられ、地質学的にいくつかの共通する特徴をもっています。上で述べたように地質図に表現できる大きさのもので、細粒の物質(今では固まって岩石になっていることが多く基質と呼ばれています)のなかに、ブロック状の大きな岩石(地層状の堆積岩、火成岩や変成岩のこともあります)が取り込まれているつくりをもっています。基質の岩石は変形していて片状に割れやすくなっています。基質は、泥岩のことが多のですが、蛇紋岩や砂岩のこともあります。ブロックの大きさもさざまざです。
基質が片状になるためには、圧力と温度が必要です。付加体ですから圧縮の力は常にかかっています。温度も、150から300℃程度まで上がり、時には一部の岩石が融けることもあります。その熱源は、断層活動にともなる摩擦熱だと考えられています。手結メランジュは150℃ほどになったとされています。横浪メランジュは、250℃ほどと温度がより高くかったと考えられています。横浪メランジュからは、断層で溶けた石がみつかっています。世界初の発見です。
整然と混在、コヒレントとメランジュが付加体の特徴です。メランジュを見ると秩序の中に困惑を感じ、整然層をみると安心を感じる秩序があります。付加体は、相反する気持ちが湧き起こる場でもあります。
手結の海岸を訪れたのは昨年秋でした。空港からも近く、国道沿いでもあるので、アプローチがすごくいいので、すぐにいくことができます。と、思って油断していると、時間切れで充分見ることができなかったりするのですが。台風の高波の影響であちこち被害を受けていたのと、天気が少々崩れてきたので、私はざっとしか見ることができませんでした。まさに油断していました。次回は、ぜひきちんと見たいと思っています。

・構造侵食・
現在、付加体についての論文の構想をねっています。
そのため、付加体について文献を読み、
概略図を作成しながら、毎日考えています。
今回のエッセイもその影響でしょう。
ついつい付加体の説明がメインになってしまいました。
複雑な構造は、言葉で説明しても、なかなかわかりにくいです。
私も理解するのに時間がかかりました。
まだ完全には解明されていない部分もあります。
沈み込み帯には付加体が形成されない
「構造侵食」が起こっているところもあります。
沈み込み帯は圧縮と書きましたが、
マリアナ海溝ように列島の後ろに
引っ張り(伸張)の力が働く場もあります。
まだまだ自然は全貌を示してくれません。

・移動の季節・
人が移動する季節です。
大学は入試も最終盤です。
そして卒業式シーズンです。
我が大学も金曜日に卒業式があります。
小・中・高校も卒業式でしょう。
中でも、大学の卒業は、
若者たちの人生における大きな区切りとなるはずです。
いよいよ春から社会人となります。
それぞれの社会生活がまっているのでしょう。
健闘を期待します。