2014年8月15日金曜日

116 羽根岬:正常と異常

 高知県室戸市の羽根岬では、付加体堆積物が見ることができます。すぐ近くでは海成正常堆積物もみることができます。しかし、私には、付加体堆積物に興味があります。

 高知の室戸岬に向かう国道55号線の通り道で、安芸(あき)郡奈半利(なはり)町の加領郷(かりょうごう)の漁港から、室戸市にはいってすぐのところにある羽根(はね)岬の漁港までのあいだの海岸には、岩礁地帯があります。ここが、今日紹介するところです。
 羽根岬は、室戸ジオパークのサイトの一つに選ばれているところでもあります。国道沿いにあるパークエリアが整備されていて、岩礁地帯へのアプローチはしやすくなっています。
 羽根岬で、私が見たかったのは、この海岸沿いの岩礁となっている地層です。このエッセイではよくでてくるタービダイト層とよばれるもので形成されています。
 タービダイト層とは、河口や海岸などの沿岸にたまった堆積物が、なんらかのきっかけで大陸斜面を流れ下り、より深い海底に持たられたたものです。この海底での流れ(重力密度流とよばれています)がタービダイトになります。タービダイトは、かなり緩い傾斜でも流れ、平坦になったところでやっととまります。ですから、タービダイト層がたまるのは、大陸斜面の平になった盆地や時には海溝の一番低いとろこまで達します。
 タービダイト層は、深い海底にたまった堆積物となります。土砂の供給源やタービダイトの流れの様子、溜まる場所、そして現在見ている地層の部分によって、タービダイト層の見え方が変わってきます。
 羽根岬の地層では、砂岩と泥岩の繰り返しがの間隔が、比較的大きくなっています。つまり、タービダイト層の一つのサイクルで、多くの堆積物がある場を見ていることになります。以前紹介したもう少し南の行頭(ぎょうとう)では、地層の厚さはもっと薄いものでした。このような地層の産状の違いが、過去を復元するとき、有用な情報になります。
 もうひとつ重要なことは、地層全般にいえることですが、過去の環境を示す情報を保存していることです。一番新しいタービダイトが、その時の海底となります。そこに、その当時の生物の暮らしを物語る化石が見つかることがあります。タービダイトとともに流れてきた化石は、この海底に住んでいたものではなく、他の場所がからもたらされたものです。このような移動してきた化石を、異地性化石といいます。その場に住んでいた生物は、現地性化石といいます。
 羽根岬では、現地性化石をみることができます。実は化石とはいっても、生物の体の一部が残っているあるわけでありません。這った跡や巣穴の跡などです。このような生活の跡も、化石として扱われています。生物が住み、その海底の状態が破壊されることなく地層になれば、生痕化石として保存されることになりますが、その条件をみたすことはあまり多くありません。ただし、行頭などのタービダイト層でも、生痕化石は見ることができます。
 付加体の構成物であるタービダイト層は、通常の地層とは、違ったできたかをします。タービダイト層は深い海底にたまり、そのままであれば通常の地層となるのですが、地質学的な位置が問題です。沈み込み帯の陸側にたまったものの多くは、付加作用を受けます。これが、通常の地層との違いを生み出します。
 付加体では、新しい地層が古い地層の下に、押し込まれていきます。もともとは古い地層が下、新しい地層が上という順でたまったものが、逆転しています。つまり、北(陸側)ほど見かけ上、上位の地層になるのですが、時代としてより古い地層がでます。このような特異な特徴やでき方をした堆積物を「付加体堆積物」として、通常の地層とは区別していしています。付加体堆積物の認定にともなって、通常の堆積物は正常堆積物と呼ばれるようになりました。
 羽根岬は、室戸岬などと比べて海溝から遠い位置にあります。ですから、より古い地層が出ていることになります。室戸岬の付加体が、4000万~2200万年前(後期始新世から前期中新世)なのですが、羽根岬の地層は5200万~3200万年前(中期始新世から前期漸新世)と、1000万年くらい古い時代にできていることがわかっています。
 日本列島は、付加体堆積物が多くを占めていることが知られています。日本列島の西半分のうち太平洋に面した地域では、正常堆積物が少なく、特に海でたまった(海成)正常堆積物は非常に少くなっています。
 地質学者たちは、羽根岬周辺では、新しい時代の海成正常堆積物からなる地層がみられることで注目しています。「唐の浜層群」とよばれるもので、四国では唯一の海成正常堆積物となっています。同様の地層は、静岡の掛川層群や九州の宮崎層群、沖縄の島尻層群などしかありません。珍しい地層となっています。
 室戸地域が、特異な地質条件に置かれているためです。海成堆積層は海岸沿いにたまります。海退が激しい地域、つまり大地が上昇しているようなところでは、海の地層がタービダイトとして海底に運ばれる前に、持ち上げられるような条件を満たす地域となります。室戸周辺は、上昇している地帯となります。この話は、別の機会としましょう。
 さて、正常の反語は異常です。ですから、正常堆積物に対して、異常堆積物といいたいことろですが、それでは日本列島の重要な構成岩石が、不当な扱いを受けてしまいます。ですから、付加体堆積物という名称が用いられています。日本では、堆積物として付加体堆積物が当たり前の分布しているのですが、大陸地域では、正常堆積物が通常で、付加体堆積物は異常な堆積物にみえる地域もあります。日本列島は、付加体と共に成長してきた大地の歴史があります。これは地域の個性ですので、仕方がありません。
 残念ながら、私は、唐の浜層群は見ていないので、また機会があれば見に行ければと思っています。今の興味は付加体堆積物の方なので、いつになることでしょうか。

・故郷として・
高知は私の好きな地域となっています。
以前愛媛に住んでいたせいでしょうか、
高知には馴染みがあります。
愛媛はだいぶ堪能したので、
次は高知という思いもあります。
海があり、山もあり、そして自然が豊富に残されている
そんな地域に私は魅力を感じます。
この条件を高知も満たしています。
住みたい地域でもあります。
しかし、今は北海道に住み、終の住まいと思っています。
ですから、第二の故郷、第三の故郷として
愛媛や高知を思っています。
ですから、調査をするときは
ついつい高知を選んでしまいます。

・暑い時期は終わった?・
北海道は台風が去ったあとは、
暑さのピークも過ぎて、
過ごしやすい夏の終わりに向かう
気候となてきたようです。
北海道以南の地域の人は、
まだ残暑が厳しいことでしょう。
私は、まだ夏休みがとれません。
もしかすると、夏休みはとれないかもしれません。
9月には、調査に1週間ほど出る予定ですが、
それまで次々と仕事があります。
頭を切り替える時間、論文を書く時間がありません。
なんとか、次なる目標に向かって行きたいのですが。