2015年6月15日月曜日

126 横浪:層状チャートと赤色頁岩

 人の目は、選別能力が非常に高いものです。今回の層状チャートの調査で、それを感じることができました。ある範囲で一番典型的なものを、短時間で探すとき、識別能力が最大限に発揮されるものだと思いました。

 最近の研究テーマとして、時間が地層物質に記録されている様式を定型化できないかと考えています。典型的な地層を選び、時間が堆積物質にどのような様式で記録されているのか、その時間記録はどの程度の質と量を保存しているのか、現在にいたるまでの変容の過程はどの程度なのか、復元はどの程度可能か、などに思いをめぐらしています。
 最初の調査対象の地層として、日本列島によくみられるタービダイト層を選びました。タービダイト層とは、大陸斜面の堆積物として形成され、海洋プレートの沈み込みにともなって形成され、付加体の中に取り込まれます。付加体が主要な構成物である日本列島では、タービダイト層は重要な堆積岩となっています。タービダイト層の形成メカニズムがかなり解明されており、比較的簡単にまとめることができました。
 次に、層状チャートについて同様の整理を進めています。第一弾では、チャート層の概要を報告しました。つづいて今年は、層状チャートの成因にかんする現状をまとめながら、現地での調査をしていくことにしてます。新しい時代の層状チャート(四万十帯)と古い時代のもの(秩父帯)の典型的な地層を対象に絞って、詳しく調べていく予定です。
 典型的な層状チャートとして、四万十帯の横浪(よこなみ)メランジュの中のものを対象にしました。ここには、非常に見事な層状チャートの露頭があります。条件さえよければ、間近にその産状を観察することができます。その条件とは、干潮で天気がよいことです。
 横浪の層状チャートの露頭は、今年のゴールデンウィークに訪れました。ここは、今年の3月にも訪れています。横波の層状チャートは、やみつきになるのでしょうか、何度、訪れてもまた見たくなります。
 横波の層状チャートへの訪問は、2010年の夏、最初にチャレンジしました。そして挫折しています。満潮直後の時間帯で、なおかつ台風の余波で波が高く、難所を通ることができずに、一度は断念してしまいました。2度目は同年の秋の天気のいい日に訪れ、行きは満潮からはだいぶ過ぎていたのですが、干潮にはまだ時間がある時だったので、靴を濡らしながら難所を通り抜けて、やっと目的の露頭に到着できました。
 念願の層状チャートの露頭は、やはり見事でした。層状チャートの露頭の真ん中には、入江があります。入江の向こうの崖には、層状チャートと赤色頁岩が互層をなす見事な崖がありました。その露頭は日陰で波をかぶっていたのですが、入江の手前から、眺めることができました。帰りは干潮に近い時間なっていたので、行きで難所であったところもあっさりと通ることできた。当たり前のことですが、これ以降、干潮時間を調べて訪れるようになりました。
 その後、干潮時間に訪れたところ、入江は完全に潮が引いていました。入江に降りて、崖にたどり着くことができました。層状チャートと赤色頁岩の互層にしっかりと観察して、データもとりました。入江の崖は、位置的に日陰と日向のコントラストが強く撮影にあまりいい条件ではありませんでした。
 あまりの見事な露頭を間近に観察できたことに興奮していたのでしょうか、自作のカラースケールがなくなっているのを後で気づきました。写真撮影で使ったあと、ポケットに戻したつもりが、しっかり入っていなかったようで、崖の前に落としたようです。さらに、帰りには、首からぶら下げていたカメラを岩にぶつけて、カバーレンズを割ってしまいました。あまり興奮すると、ろくなことがないようです。
 今年は、2回もいってるので落ち着いて調査をすることができました。3月には、とりあえず代表的なチャート層を一層決めて、それを詳しく観察し、接写から遠景まで、さまざまな画角で撮影しました。それを論文で利用したのですが、とりあえずパッと目についた一層なので、もっと典型的なものがあるはずです。また、チャート層のバリエーションも見つけて詳しく観察し、撮影もしようと考えて、5月に再度訪れました。
 3月は目についたチャート層を簡単に選んだので、5月の調査では、じっくりと落ち着いて選択していけば、もっといいもの、違ったタイプも見つかるはずだ、と思って調査にいきました。ところが、なかなかいい層が見つからないのです。なんとがもう一つ典型となりそうなものを見つけたのですが、最初のものが一番いい層なのです。もっと時間をかければ、あったかもしれませんが、許された時間内で探したところ、パッと見つけた層が一番でした。この時、人の無意識におこなっていても、その選別の能力は、優れたものだと思いしらされました。
 横浪メランジュは、国の天然記念物に指定されました。五色浜の入り口に看板ができ、いつのころからか、難所をつくっていた大岩もなくなっており、通りやすくなっていました。干潮でなくとも、濡れる覚悟さえすれば、危険を覚えるようなルートでなく、無難に通れるようになりました。干潮の時を選べば、難所ではなく、足もとを濡らすこともなく、簡単に通れるようになっていました。
 ただし、層状チャートまでのルートは、尾根をなす岩場をいくつか越えるので、それほど楽ではなのですが、注意していけな、誰でも行けるようになりました。また、岩場の海岸を歩くことになるので、少々の体力も必要ですが。
 横浪の層状チャートは学会や雑誌、専門書の表紙になるほど見事な露頭なのですが、肝心のチャートの成因は、まだ確定していないようです。
 層状チャートを詳しく見ると、相異なる成因の産状を示してみえるようです。一見単調にチャートが層をなして繰り返してるだけにみえるのですが、なかなか複雑な背景があるのです。
 層状チャートのそもそもの素材は、海洋の珪質の殻をもったプランクトンの死骸です。プランクトンの死骸が海洋底に沈み、有機物が溶けて珪質の殻だけが残ったものです。さらに炭酸塩と珪酸塩の海洋での溶解度の違いによって、深海底では珪質の殻だけが残り、チャート層ができると考えらます。
 チャートの堆積速度が調べると、なんと1000年で数mm程度の厚さしか堆積しないのです。層状チャートでは、チャートの厚さは数cmから十数cm、時には数10cmにもなりますので、一層が堆積するのに、少なくとも数千年、時には数万年かかっていることになります。薄い頁岩も、数千年かかるとされています。
 この堆積速度が意味することは、通常はプランクトンが活動しているときはチャート層が堆積しており、数千年か数万年に一度くらいの頻度で、珪質の殻をもつプランクトン全種類がいなくなったことを意味します。珪質のプランクトンは、放散虫で植物性プランクトンを餌としており、大型の動物の餌となります。つまり海洋の生態系の基礎を担っています。チャートの堆積がストップしているということは、海洋生態系の長期にわたる停止、つまり大絶滅の記録とみなせるのです。多数の層状チャートが形成されているので、繰り返し大絶滅があったことになります。これは、私たちの生物進化における絶滅観を変えるくらいの意味を持っています。
 ただし、層形成には他の説もあります。それは、別の機会にしましょう。
 多数のチャートが繰り返す層状チャート、そして入江の奥には赤色頁岩の成分がまじっている層状チャートに変わります。そんな層状チャートをみると、どうしてこの地層ができたのかの疑問は、さらに不思議さを増します。そんな不思議さも、層状チャートの美しさも増すこそすれ減らすことはありません。

・人の記憶・
私の野外調査の日程は、
1週間前後しかとれません。
あちこち回る余裕はありません。
限られた場所を、じっくりとみることにしています。
その期間に絶対見たいところは、
調査の最初と予備として最後にも
調査予定が入れられるように
調整するようにしています。
今回の横浪も、天候不良があったときに備えて
最後にも日程も取れるように考えていたのですが、
干潮が夕方になるので、
最初の日程がベストでした。
今回は、予定通りこなすことができました。
おかげで別の地域にいくことができました。
そこも3度目のところでしたが、
新たな発見がありました。
今まで違う目的で見ていたので
目にしてはいたのですが、
記憶に残っていなかったようです。
人の記憶はいい加減なものです。

・季節の移ろい・
6月の北海道はいい季節です。
今年のYOSAKOIソーランは
6月10日から14日の日程でおこなわれました。
札幌の大通り公園を中心としたイベントが
最大の規模ももので、全国、世界各地からチームが参加します。
この期間終了後も、
チームは各地の祭りやイベントに呼ばれて
なんども踊ることになります。
気の早いチームは来年に向けての準備にも入るのでしょう。
春から初夏の風物詩がひとつずつ進み、
季節が巡っていきます。