2017年3月15日水曜日

147 鶴見半島:海洋プレート層序とメランジュ

 大分県佐伯市の鶴見半島の大地は、四万十帯に属します。四万十帯の中でも、海洋プレート層序とメランジュの産状が、期待以上にきれいにみることができました。特に赤色頁岩の赤色は、鮮やかで印象に残りました。

 1月下旬に大分から宮崎へ短期間の野外調査にでました。鶴見半島での調査は、一日かけておこなう予定をしていました。予定の調査が終われば、次の宿泊地の延岡に行くだけのゆたっりとした予定を組んでいました。鶴見半島では、海洋プレート層序をみたいと思っていました。ただし、その層序は乱されており、メランジュになっています。露頭があるかどうかが不明だったので、ゆったりとした予定を組みました。
 ここで使った「海洋プレート層序」と「メランジュ」をいう言葉は後で紹介します。
 鶴見半島は、大分県の南の佐伯(さいき)市にあります。鶴見半島は、豊後水道に向かって東に突き出しています。この周辺は、リアス式海岸が広がっているところなので、海岸地形が非常に複雑になっています。平地が少ないので、半島内には大きな町はありません。また、道路も複雑に入り組んだ海岸にへばりつくように通っており、カーブの連続になります。道路は北の海岸線にそって通っているだけで、交通網も発達していません。まあ、集落もあまりなく、人口も少ない地域なのでしかたがないでしょう。
 このようなリアス式海岸では、海岸線が急な崖になっているところも多く、露頭が連続したとしても、近づけないところも多くなります。事前の文献調査では、露頭は小さかったのですが、私の興味をもっている岩石が写真で紹介されていました。しかし、その地点は、地図で見ると道からかなり離れた海岸線沿いにあり、海岸線を歩いて行くか、船でいくしかなそうです。もしかすると釣り人の道があるかもしれません。実際には行ってみないとわかりません。
 鶴見半島の予想通り、歩いて海岸を調査できるような海岸ではありませんでした。しかし、それは想定内のことでした。
 半島の北側を通る県道604号線は、くねくね道ではあるのですが、一部まだ整備されていないところはあるのですが、2車線ある道路になっていました。そのためでしょうか、新しく切られた道路沿いの露頭があちこちにありました。風化のない新鮮な露頭で、多様な岩石をみることができました。非常に地質学者としては、うれしいものでした。
 多様な岩石とは、玄武岩、層状チャート、赤色頁岩でした。これらは「海洋プレート層序」を形成している岩石です。海洋プレートは、海嶺でマントルで形成されたマグマが活動して海洋地殻ができます。マグマは、海嶺特有の組成をもった玄武岩(中央海嶺玄武岩と呼ばれています)となり、海底に噴出するマグマなので枕状の丸い形の溶岩が積み重なった産状になります。このような形状の溶岩を、枕状溶岩と呼びます。できたばかりの海洋地殻の最上部は枕状溶岩からなる玄武岩となります。
 海洋プレートが海嶺から深海底を移動していくと、表面に珪質プランクトンの死骸がたまり、層状チャートが形成されます。層状チャートは大洋の深海底で形成されたものです。
 海洋プレートが陸に近づいてくると、陸源の堆積物が届くようになってきます。ただし極細粒の堆積物が海流や深層の弱い流れによってもたらされ、赤色頁岩ができます。海洋プレートが陸に近づくほど、赤色頁岩の量が多くなってきます。
 海洋プレートが海溝に近くにくると、陸からのタービダイト流などによって、粗粒の物質が直接届くようになってきます。それはタービダイト層と呼ばれ、砂岩泥岩の繰り返している互層となります。海洋プレートがもっとも陸地近づくところが、海溝となります。
 以上のように、海洋プレート表層部の玄武岩、層状チャート、赤色頁岩、砂泥互層という岩石の並びを「海洋プレート層序」と呼んでいます。
 海溝まできた海洋プレートは、沈み込んでいきます。そのまま沈み込んだら、海洋プレート層序は見ることはできないのですが、日本列島のような地域では、海洋プレート層序が陸地に持ち上げられています。海洋プレートが陸地に持ち上げる作用を付加作用、持ち上げられたものを付加体と呼びます。
 付加作用は、プレートテクトニクスという大地の大きな力によるものです。しかし、きれいな海洋プレート層序が、そのまま持ち上げられることはありません。付加作用中に、多数の断層が形成され、層序はずたずたに乱れ、切り刻まれています。もちろん中には、層序がのこている部分、乱れている部分が混じっています。
 もっとも乱れている部分で、層状がまったくわからなくなっているもの、もともとの成因や形成場の違っている岩石が接しているような状態を「メランジュ」と呼びます。メランジュには、岩石の境界に断層があるものも、断層があるはずなのにピッタリくっついているものなど、境界にはいろいろな接し方があることがわかってきました。
 だから、メランジュという概念が導入されたことで、それまで多くの地質学者を悩ませていた、成因の異なる岩石がピッタリくっついてる現象に答えがでたわけです。付加体にはメランジュがあるので、どんな岩石くっついていても不思議ではないのです。
 例えば、海嶺の玄武岩と赤色頁岩と、層状チャートの砂泥互層が接していたりすると、通常の上で述べたように、まったく違った環境や場で形成されたものです。それぞれの岩石の成因がわかっていても、ピッタリくっついているとなると、その関係をもってできたという立場で考えると、理解不能になります。
 鶴見半島では、きれいな枕状溶岩、整然とした層状チャート、赤色頁岩がありました。また層状チャートと赤色頁岩の互層がありました。激しく乱れた層状チャート、メランジュなど、多様な付加体での海洋プレート層序を見ることができました。
 鶴見半島は、あまり観光化されていない地域です。四万十帯が分布している地域で、その中でも海洋プレート層序やメランジュが特別よくみることができました。赤色頁岩の赤い色が非常に鮮やかでした。そして赤色頁岩が層状チャートと複雑に混じり合っているところも見ることができ、感動的でした。観光地ではないですが、地質学者には見どころいっぱいの地でした。

・実りの多い調査・
鶴見半島では、メランジュになっているので、
どの程度露頭があるか不安でした。
もしかすると、期待する岩石が
ほとんど見れないかもしれないという
不安も持っていました。
でも、なんとか目的の露頭を見つけて
調査を無駄にしないようにと考えました。
どんなところでも、海岸線などをこまめに歩けば、
露頭は必ずあるはずだという信念でいきました。
空振りにならないようにという思いで、
1日の調査予定をもって望んでいました。
半島を進んでいくと、
つぎつぎと新鮮な露頭がでてきました。
露頭は、メランジュや海洋プレート層序を構成している岩石でした。
これは予想外のことで、悦びもひとしおでした。
その上、赤色頁岩の見事な色とその産状。
いろいろ実りの多い調査となりました。

・大学の行事・
今週から来月の初めまでは、
大学のいろいろな行事があり、
非常に多忙な時期となります。
私は、役職にもついているので、
いろいろ人前にでることが多くなります。
年度末から初めの大学の行事は
学生たちが主役のものがほとんです。
巣立つ学生たち、新しく迎える学生たち。
そんな学生の顔をみると
大変な行事であってもやりがいがあります。