2018年1月15日月曜日

157 紀の松島:アンビバレントな景観

 和歌山の東の海岸に、知る人ぞ知る名所、「紀の松島」と呼ばれているがあります。関西からも中部からも、アプローチが遠いので、都市圏からはすぐには行きづらいところです。でも、そこには素晴らしい景観がありました。

 和歌山県東牟婁(ひがしむろ)郡那智勝浦(なちかつうら)町に、「紀の松島」と呼ばれる半島があります。紀の松島は、南の森浦湾と北の那智湾の間に位置します。17kmほどの周囲に、なんと大小130ほどの島があります。多くの島があるという景観が、日本三景の宮城県の松島に似ていることから、「紀の松島」と呼ばれているそうです。宮城の松島には、260ほどの島があるようなので、数では及びません。しかし、紀の松島は外洋に面しているため切り立った岩礁になっています。宮城の松島は穏やかさ、雅さが売りですが、紀の松島は峨々とした岩礁や激しい波浪など、荒々しさが売りとなるようです。
 紀の松島は隆起海岸のようで、断崖があり、洞や島、アーチなどが見れられます。紀の松島は、海岸線が入り組んでいるのですが、場所によっては歩きやすい海岸もあります。そんな海岸には松島を構成している岩石の露頭がでています。海岸は、見学するのに都合がいいところです。
 昨年の9月上旬の調査で訪れました。その日は、風が強く波も高かったので、少々渡るのに苦労したところもありましたが、予定通り見て回ることができました。ここには、2016年秋にも来ているので、2度目となります。同じところを調査したのですが、飽きることなく見てまわることができました。時間とお金があれば、グルージングで、この周辺の奇岩類の景観を巡ることができます。私は、石をじっくり見ることが目的なので、船には乗りませんでした。機会があれば、巡りたいものです。
 紀の松島の北東には、お蛇浦(おじゃうら)遊歩道があります。狭い道を車で入ってくので少々わかりにくいのですが、トンネルを抜けると、広い駐車場も完備されています。しかし、人があまり来ないところのようです。静かに露頭を眺めることができました。
 以前に紹介した宇久井半島(142 宇久井半島 2016.10.15)が北東にあるのですが、3kmほどしか離れていません。しかし、構成している岩石は、だいぶ見かけが違っています。宇久井半島は、大部分が熊野火成岩類の火山岩(枕状溶岩)からできていて、少しだけ牟婁層群よばれる付加体で形成された地層が分布しています。この牟婁層群には、大陸内で形成されたオルソクォーツァイト(orthoquartzite)と呼ばれる不思議な礫が含まれていました。
 紀の松島は、層をなす堆積岩からできています。この地層は熊野層群と呼ばれています。1400万年前に浅海で堆積した堆積岩です。この地層には石炭も産し、かつて新宮市(熊野川町)では採掘されていました。石炭は植物から由来するので、陸に近い堆積物である証拠ともなります。
 熊野層群と対を成すように、紀伊半島の西側、白浜周辺に同時代に似た環境で堆積した田辺層群もあります。そこも同じような砂岩や泥岩、礫岩などの堆積岩からできています。浅海でできた堆積物です。
 海岸を歩くと、地層が織りなす景観は、非常に奇異なもので一見の価値があります。規則正しい互層からできているのですが、この整然とした地層が海岸に広がっています。峨々と切り立った断崖が、整然とした地層からできいます。この険しさと整然さのアンビバレントな景観が、不思議さを醸し出しているのかもしれません。
 半島の北のはずれにある弁天島の周辺では、面白い現象がみることできます。海岸に岩礁があり、上部はお蛇浦(おじゃうら)遊歩道の海岸で見た、きれいな成層構造をもった地層です。しかし、下部には層がはっきりしない泥岩からできています。その泥岩には角ばった礫をたくさん含まれています。また一部では、貫入岩のように上の層上の地層に入り込んでいます。
 この泥岩が、マグマのように貫入した泥ダイアピル(mud diapir)と呼ばれるものです。泥ダイアピルはマグマとは違って熱く溶けたものではありません。しかし、液体として振る舞う点で似ています。泥ダイアピルは、まだ固まっていない泥が、地震で液状化したものです。上の層が固まった地層に、地震でできた割れ目(断層)にそって、液状化した泥が上昇したものです。液状化した泥には、周辺の岩石で固まったものが割れて取り込まれています。ここにも、アンビバレントな関係がありました。
 熊野層群が堆積していた同じ時代に、古座川弧状岩脈というマグマが貫入しました。古座川弧状岩脈は、幅500mほどで、22kmもの長さをもった岩脈です。この巨大な岩脈は、もともと巨大カルデラの南の縁だったと考えられています。古座川弧状岩脈は、古座川から大地町まで延びています。その延長線上の少し北に紀の松島があります。地下には岩脈があるのでしょう。熱による変成作用を受けた地層もあり、この周辺にある温泉も、その火成岩の熱によるものだと考えられています。
 紀の松島は、白浜と比べると、少し知名度が落ちるかもしれません。しかし、自然や景観に関しては、勝るとも劣ることはないと思います。白浜は、北海道からいくとき、飛行機の離着陸地となります。ですから、かならず寄ることろになるので、私には身近になっています。紀伊半島の海岸を調査で巡る時は、紀の松島も温泉付きの宿泊施設も充実しているので、今度は温泉とクルージングを楽しみたいものです。

・今年の野外調査は?・
9月に調査に出て以来、
しばらく調査にはでていません。
毎年恒例のことなのですが、
昨年の後半は、
非常に忙しい思いをして過ごしたので、
少々気分転換をしたいものです。
来年の調査予定はまだ未定ですが、
9月の調査は毎年することにしています。
もし研究費が当たれば、
ゴールデンウィークにも調査にでたいと考えています。
研究テーマを近々整理する予定なので、
その結果により、どこになるかを決めことにしています。
でも、研究費が当たればの話ですが。

・時の移ろい・
1月になり、不順な天候が続いていたのですが、
センター試験の時期は、
安定した天気となりました。
センター試験は現在では、
年中行事のひとつになっています。
近うちに、センター試験も改革で変わるようです。
もしなくなると、
この時期の時の移ろいは
成人式だけとなります。
ただ、北海道では、冬休みが終わり、
15日から小・中学校がはじまるので
通学路になっている歩道は、除雪がはりました。
通勤する人にも歩きやすくなりました。
こんな除雪に、時の移ろいを
感じることができる北海道でした。