2018年6月15日金曜日

162 折戸浜:半遠洋性堆積物

 道南の折戸浜には、付加体の構成物の岩石が、海岸の砂の中にモニュメントのように点々と立っています。それは、不思議な光景です。私は、そこに海と陸の架け橋である半遠洋性堆積物を発見して感動しました。

 北海道の南、松前郡松前町館町に砂浜の海岸が続くところがあります。松前の町より少し北の海岸で、折戸浜(折戸浜)と呼ばれています。道南の海岸は岩礁が多いのですが、折戸浜のあたりだけが、広く砂浜が伸びています。それでも、砂浜の中に岩礁が、いたるところにモニュメントのように立っているのが見られます。その岩礁には興味深い地層が出ていました。
 一般に古く変形や変質の激しい地質地帯では、露頭があっても風化が激しく、産状がわかりにくいところが多くなります。それに比べて、海岸や河川沿いでは、きれいな露頭を見ることができます。例えば、海岸では、岩礁の表面は、波で日々洗われ、磨かれているので、非常にきれいな露頭となり、産状をよく見ることができます。
 私は、これまで道南で地質調査をしたことがないのですが、あまりきれいな露頭が少ないと思っていました。露出のいい露頭があるとすれば、海岸や河川沿いなど、限られているだろうと、海岸を中心の調査を進めました。折戸浜は、砂浜ですが、砂の中に岩礁として露頭がでていることは有名ですし、以前来たときも道路脇から確認していました。今年の道南の野外調査では、この岩礁を4月かこれまで3回、そして7月にもう一度見にいくことになりました。
 折戸浜の岩礁では、砂岩と泥岩の互層などの堆積岩が主体ですが、場所によっては、層状チャートも見られます。また、周辺では枕状溶岩となっている玄武岩やその破砕した玄武岩なども見られます。これらの岩石類は、エッセイでは何度も紹介している付加体の構成物です。松前層群と呼ぼれるジュラ紀に付加したものです。
 砂岩泥岩の互層は、タービダイト層とも呼ばれるものです。付加体の砂岩泥岩互層は、タービダイト流が起源となります。タービダイト流とは、沿岸に堆積した堆積物が、ある時、大陸斜面での海底地すべりなどで土石流のようになり、一気に深い海(海溝付近)へ流れ下ったものです。この流れをタービダイト流(重力流、乱泥流など)と呼びます。一度のタービダイト流で、粒度が大きく重い砂から小さな泥へと粒度変化してたまり、一層の地層となります。このような粒度変化を、級化(きゅうか)といいます。一度の堆積作用は数日でおさまります。それ以外の時間は、ほとんど堆積物もたまらない、変化の少ない海底へともどります。
 タービダイト流は、その発生メカニズムを考えると、数十年や数百年に一度にしか起こらない現象です。しかし、地球の時間の流れで考えると、地質変動の激しいところでは、繰り返しタービダイト流が発生して、タービダイト層が堆積することになります。これが、砂岩泥岩の互層からできているタービダイト層の起源です。
 一方、枕状溶岩は海底でできる火山岩の特徴的な産状です。玄武岩の化学的特徴や産状から、中央海嶺で噴出した海洋底でのマグマ活動が起源だと考えられています。海洋地殻の最上部を構成していた岩石です。
 また、層状チャートは、海洋性の珪質殻をもつプランクトンが死んで、その殻が深海底に沈んで溜まったものです。小さなプランクトンの殻ですから、溜まる量は少なく、非常ゆっくり(千年で数ミリメートルほど)としかできません。しかし、これも地球時間で考える厚い層となっていきます。それが層状チャートです。深海底の堆積物です。玄武岩の上に深海底で付け加わった層状チャートがたまります。
 玄武岩から層状チャートという岩石の構成は、もともとは海洋地殻の最上部の構成物だったことになります。この海洋地殻が、プレート運動によって、列島にぶつかり、海溝で沈み込んでいきます。そのとき海洋地殻の上の部分が剥ぎ取られて、列島に付加体として取り込まれます。それがタービダイトと混在する枕状溶岩や層状チャートです。折戸浜では、海と陸の構成物が、はらばらにされて、詰め込まれているのです。
 陸起源のタービダイトと海起源の玄武岩と層状チャートは、もともとは、海溝で隔てられてはいるのですが、海溝を超えるタービダイト流があることも知られています。層状チャートの中に、陸のタービダイト起源の堆積物が混じることは知られているのですが、私は、見たことがありませんでした。それを、この折戸浜で見つけることができました。
 ある岩礁で層状チャートを見つけました。その中に黒っぽい泥岩の層があることに気づきました。最初は、不思議だなあと思っていました。もし一層だけなら巨大なタービダイトがあれば、海溝を越えて遠くの深海底にまで達すことは知られていたので、それが起源かと思っていました。しかし、その層状チャートをよくよく観察していくと、層状チャートの間には泥岩が厚さはさまざまですが何層かありました。薄ければそれは層状チャートの層間にある粘土層ともかんがえられるのですが、黒いのと、さらにチャートに似た白っぽい色ですが、細粒ですが砂岩と呼べるものまで見えてきました。これらは、「半遠洋性堆積物」と呼ばれるものだと判断できました。文献でしかみたことがなかったのですが、海と陸をつなぐ架け橋となるものでした。はじめて見つけて、感動しました。
 私にとっては、折戸浜の半遠洋性堆積物の露頭は、忘れがたいものになりました。機会があれば、これからも何度が訪れたいものです。アプローチも楽ですし、露頭もきれいなので、いいところです。

・ボランティア・
砂浜が広がるので海水浴場にもなっています。
私が行ったときに、広い駐車場があるのですが、
そこに車が一杯停まっていました。
なにか行事あるのかと思っていたら、
海岸の一斉清掃が行われていて
ちょうど終わったところでした。
きれいな砂浜を維持するため、
地元の人が、多分ボランティアでしょうが
努力されているのを見ることができました。

・半遠洋性堆積物・
初回の調査では、層状チャートを発見して、
その産状をいつものように見ていました。
すると、一層だけ厚い泥が挟まれているのに気づきました。
その泥岩が目立っていたので、
それだけに注目して、詳しく見ていました。
そして、その泥岩を見つめながら、
どうしてできたのかを、いろいろ考えていました。
でもその時、起源を思いつきませんでした。
帰ってから、考えついたのが、
上の巨大タービダイトの異常な事件というアイディアでした。
いずれにしても重要な露頭なので、
今年の調査予定を変更して、
この周辺を何度か調査することにしました。
それを、きっかけにして
この露頭を詳しく調べることにしました。
その結果は、上のような半遠洋性堆積物だということが
判明してきたのでした。
思い出深い露頭となっています。