2022年12月15日木曜日

216 フレペ滝:溶岩から流れる乙女の涙

  知床は、知床五湖、オシンコシンの滝、カムイワッカの滝、野生の自然など見どころもたくさんあり、多くの人が訪れます。観光地にはなっていますが、あまり人が訪れないフレペ滝を紹介します。


 8月末に北見で校務があったので、その終了後、続きで知床に調査にいきました。知床には、ここ最近、何度か来ています。知床は、国立公園で世界遺産でもあるので、自然保護がされていており、ヒグマなどの野生との共生のため、見て回るルートが限られています。ヒグマが目撃されたら、そのルートは入ることができなくなります。以前にも訪れたところを巡りました。知床は、何度でも見て周りたいところです。
 今回は、フレペ滝とその周辺の話題です。草原の中を通り抜ける散策道を突き当りまでいくと、木造の展望台があります。そこから、フレペ滝を見ることができます。滝は遠くからしか見ることができないのですが、なかなかきれいな滝です。大きな湾状のくぼみの奥の崖に、滝あり流れ落ちています。この滝について紹介しましょう。
 北東に伸びている知床半島は、中央部には知床連山の高まりがあり、海岸は断崖が続くところが多くなっています。海岸沿いが崖が多いため、人が近づきにくいところなので、自然が残されています。陸の自然、海の自然も豊富なところです。半島で少しだけある平らな海岸には、船がつけられるので番屋ができ、夏の間だけ漁がなされます。
 険しい崖になっているのは、知床半島が新しい火山からできているためです。知床連山は、付け根からみると、斜里岳、海別岳、遠音別岳、羅臼岳、硫黄岳、知床岳などの山が続きますが、いずれも90万年前からあとに活動した第四紀の火山からできています。
 火山の土台になっている岩石(基盤岩といいます)は、海底で堆積した地層からできています。900万から100万年前くらいまでの新第三紀に堆積したものです。基盤の地層は砂岩泥岩からできているのですが、火山砕屑岩類も含んでいます。いずれも海底でできたものです。
 古い方から順に、忠類層、奥蘂別(おくしべつ)層、ヌカマップ火山砕屑岩層、越川層、幾品層、知床岬層となっています。基盤岩の上に火山噴火による地層が重なっています。地質図を見ると、火山岩の下には、あちこちに点々と新第三紀の基盤の地層が顔を出しています。知床半島の付け根に近いほど古い地層をみることができます。
 火山は陸での噴火活動です。知床半島全体が、第四紀になってから陸化したことになります。知床半島は新しい大地となります。
 さて、フレペ滝です。この滝を海から見ると、奥まった湾の断崖から、静かに水が流れ落ちている滝がみます。陸からいくには、知床自然センターからはじまる散策路があり、平らな草原(幌別台地)の中を20分ほど歩きます。北側に灯台への道がありますが、南へのいくのが散策コースとなっています。散策路の先、崖に面したところに、滝を見るための展望台があります。
 平らな草原には、川の流れがないのですが、滝からはかなりの量の水が静かに流れ落ちています。「乙女の涙」と呼ばれる滝です。海側から見ると、平坦な草地から急な崖は、上部の斜面は草がついていのですが、そこには川の流れは見当たりません。崖の途中から、水が崖から直接流れでて、滝となっています。不思議な滝です。
 滝の水は、山にふった雨や雪が地中に浸透し、地下水になったものが、崖で直接流れ出ていることになります。崖では、海面近くに柱状節理が見えますが、内部の大部分は固そうな溶岩となっています。これは羅臼岳から流れ出た溶岩がみていることになります。溶岩は柱状節理などの割れ目ができて、水が染み込みやすいのですが、固い溶岩のところは水が流れにくくなっています。平らな草原に染み込んだ水が、固い溶岩の上部を地下水として流れ、崖で海に流れ落ちたのが、滝となっているようです。知床半島には似たような滝が多数あります。
 羅臼岳は15万年前から1万8000年前に活動した火山です。知床半島で最も高い山で、新しい火山でもあります。フレペの滝は、羅臼岳の古い時期の火山活動によるものだと考えられます。羅臼岳は、噴火の歴史的な記録は残っていません。研究が進んできたので、噴火の歴史がわかってきました。年代測定の結果、2300年前ころ、1600年前ころ、700年前ころに火山活動があったことがわかってきました。活火山は、「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義されているので、研究の進行により、1996年に活火山に指定されています。
 700年前ころの年代値は、690±50年と790±50年がでています。平均すると740年前ですから、西暦1280年ころになります。そのころは、ちょうど鎌倉時代後期にあたります。この時代であれば、火山活動があれば、記録に残っていてもいいはずです。知床は北海道でも最果て地ですし、海岸も崖で平地も少ないので人が住みにくいところでしょう。そのため、記録にも残りにくいところだったのかもしれません。なんといっても、元寇があった時期です。幕府や都の人の興味は、元寇のため西に向いていたのでしょう。
 今では、知床には多くの観光客が訪れています。知床は、国立公園でもあり、世界遺産にもなっています。そのため、限られた場所しか見て歩くことができません。また冬は寒さや雪もあるので、観光には適さない時期もありますが、夏には歩けないところや流氷などをみることできます。しかし、冬はなかなか厳しでしょうね。

・地質図・
日本中の地質図は、
産総研地質調査総合センターの地質図Navi
https://gbank.gsj.jp/geonavi/docdata/help/img/geonavi-image.jpg
で見ることができます。
GoogleMapや地形図や衛星画像などを
重ねることもできので見やすくできます。
なかなかすぐれたもので
市民でも簡単に利用できます。
ぜひ試してみてください。

・大雪・
このエッセイは予約配信しています。
月曜日に校務があるのですが、
もともと私用で一泊する予定でした。
近くの野外調査をしようと考えていました。
一気に降った雪のため
野外調査できなくなりました。
高速道路が雪で速度制限がかかっていると聞きました。
そのため、前泊して校務に望むことしました。
このエッセイも事前に配信しました。