宇久井半島は小さいのですが、日本列島の縮図というべきほど、あれもこれもといろいろな地質が見ることができます。観光コースからは外れていますが、なかな見どころ満載で、地質に興味のある人にはいいところです。
和歌山県の那智勝浦町と新宮(しんぐう)市の間に、太平洋に小さく突き出た宇久井(うぐい)半島があります。宇久井半島は那智勝浦町の東はずれにあたります。那智勝浦というと、那智大社や那智滝が有名で、多くの観光客が訪れるところです。
宇久井半島も吉野熊野国立公園に含まれているので、きれいな景観があるはずです。今回、宇久井半島にある宿舎に泊まったのですが、この半島は、国立公園でもあり、ジオパークのジオサイトにもなっています。そこまでは知っていたのですが、あまり注目していませんでした。ところが訪れてはじめて、ここが地質学的になかなか興味深いところであることがわかりました。さすがにジオサイトになるだけの内容があります。訪れてから予定を変更して、宇久井半島をじっくりと見ることにしました。
そもそもは、宿舎に行く道の途中に、「宇久井ビジターセンター」に立ち寄ったことがきっかけでした。その日は、熊野本宮から新宮、そして那智の滝周辺にかけて、点々と地質を見てきて、天気もよくかなり歩き回ったので、少々疲れていました。しかし、ビジターセンターでの宇久井半島のジオパークの説明を見ているとなかなか見どころがあります。
宇久井半島が、もともとは島でした。ところが縄文の海進により、本島と島の間に砂州が発達したそうです。海進が終わると、砂州が陸化して、陸繋砂州(トンボロ)となり陸続きなったそうです。その地形が展望台からみえるそうです。また、ホテルのすぐ近く浜(半島の東)には、見事な柱状節理があり、そして半島の反対側(半島の西側)には少々変わった石があるということです。
センターの人と話をしていると、そんな多数の見どころが、すぐに行けることがわかりました。これはじっくりと見なければならないところです。その日は疲れていたので、翌日に見て回ることにしました。
翌朝、宿舎の脇の道を下って「外の取(そとのとり)」の海岸にでました。台風の影響で風の強い日でしたが、見事な柱状節理がありました。この節理は、熊野火成岩類からできています。通常、柱状節理は玄武岩などの塩基性マグマで見られることが多いのですが、ここでは酸性マグマからできています。風化面も淡い色で、岩石の表面を見ると大きな長石の斑晶を多数含んでいる酸性火成岩であることがわかります。
半島の大地の大部分は、熊野酸性岩類からできているのですが、少しだけですが牟婁層群が、宇久井半島の西南の地玉(ちごく)の浜の海岸沿いにですが分布しています。牟婁層群は付加体として形成されたものです。その牟婁層群の中に、オルソクォーツァイト(orthoquartzite)とよばれる礫が含まれているのです。
オルソクォーツァイトとは、正珪岩と呼ばれることがありますが、ほぼ石英だけからできている岩石です。顕微鏡で詳しく見るとわかるのですが、オルソクォーツァイトは、丸い石英の粒が集まってできています。粒子の間も石英です。これは石英の礫からできた堆積岩なのです。しかし石英だけからできている堆積岩は、日本ではみかけません。大量にあるのは、大陸地域です。
大陸を形成している深成岩である花崗岩の仲間が風化を受けます。すると花崗岩を構成している長石や黒っぽい鉱物(雲母、角閃石など)は溶融、侵食でなくなったり、小さくなり、頑丈な石英だけが残ります。砂漠などそのいい例です。風化をうけた石英は丸くなっていきます。このような石英が集まると、オルソクォーツァイトができます。ただし他の礫や鉱物が混じらないということは、大きな大陸で風化で石英だけが残っているところが礫の供給源となっているということです。大陸内部の湖や、大きな大陸の縁で堆積したものだと考えられます。
このオルソクォーツァイトは、大陸縁でできた堆積岩が、砕かれて牟婁層群がたまっている環境(海溝近く付加体)にまでたどり着いたのです。オルソクォーツァイトの地層は大陸にはよく見られる岩石ですが、現在の日本列島には地層としては全くありません。ですから、ここのオルソクォーツァイトは、ユーラシア大陸から流れてきたもので、日本列島が大陸の縁にあった証拠となると考えられています。
地玉の浜では、地層の分布はそれほど広くはないのですが、多数のオルソクォーツァイトの礫をみることができます。なかなか興味をそそる履歴をもった礫岩です。
半島の尾根には展望台がつくられており、そこからは宇久井半島の付け根をみることができます。木があって少々見づらいのですが、付け根が、平らな低地になっていることがわかり、砂州からトンボロになった地形であることがよくわかります。
宇久半島は、日本列島に履歴の不思議、酸性マグマの柱状節理、新しい時代の地質現象まで、いろいろな時代、いろいろな履歴をもった岩石や景観が見ることができます。小さい半島なのですが、ビジターセンターもあり、人も常駐しています。見どころへのアプローチも整備されており、地質を見学するにいいところです。
今回はもともとは、宿泊だけの予定でしたが、いろいろな地質の見どころも味わうことができて、儲かりました。
・冬の足音・
北海道は、冷え込んだ日が何度もあり、
大学もとうとう暖房が入りました。
我が家では、もちろんとっくに暖房をたいています。
私の外出着も、手袋にマフラーと冬仕様になってきました。
里への雪はまだですが、山並みは何度か冠雪がありました。
今はまだ秋なのですが、
いよいよ冬の訪れを感じさせる季節になりました。
・代償として・
大学は、授業がはじまると、日々の流れや早くなります。
講義数が多くて、毎日、毎週、慌ただしく過ごしていて、
なかなか息抜きをする時間がありません。
その隙間時間をぬって、研究をしています。
時間がない中で仕事しているのですが、
集中しているせいでしょうか。
それとも詰めが甘いまま手放すためでしょうか。
とりあえず形だけは整えて、
結果として成果の数だけが増えます。
研究は数より質、内容だと思っているので
少々不安も不満もあります。
でも、ないよりある方がいいのは確かです。
忙しさの代償を持っているような気もします。
でも忙しさの影では、心がすり減っているような気がします。
私の世代では、しかたない状況なのでしょうかね。