2017年4月14日金曜日

148 津久見:国産資源としてみた石灰岩

 日本の資源で、輸入に頼ることのない資源として石灰岩があります。なぜ日本では、石灰岩が豊富なのか。そして大分県津久見市では、古くから現在まで優良な産地となっているのはなぜか。その謎を探っていきましょう。

 冬に九州へ野外調査にいきました。宮崎の空港から入り、大分に向かいました。大分は別府温泉で有名です。以前行ったときには、別府温泉に宿泊し、地獄めぐりもして、温泉を堪能しました。私は温泉は好きなので、出かけて機会があれば、温泉に入るように心がけています。ただし、今回は別府までは行かずに、もっと南にある津久見(つくみ)市まででした。そこで見た岩石に関する話題を紹介します。
 前のエッセイでも書いたのですが、冬の調査では、メランジュや海洋プレート層序など、付加体と呼ばれるもので形成された地質構造をみることが目的でした。今回紹介する津久見の岩石も、付加体の一部となります。近くにいってみることは難しい場所にあります。しかし、衛星画像からでも、その分布がわかるほどの大規模なものです。
 日本列島は、複雑な地質構造をしているため、同じ地層や岩石が、長く連続したり、広く分布することがあまりありません。ですから、多様性に富んではいるのですが、同じものが大量にはありません。資源という見方をしますと、多様な岩石・鉱物資源はあるのですが、量産することは難しくなります。まして、地表付近に顔をだして、掘りやすい資源は稀なものとなります。
 地下深くにあったとしても、金のように単価の高いものであれば、佐渡や鴻之舞のような金山として採算が取れ、採掘を継続できます。これは、単価の高い資源の場合です。石炭のように単価が安いものであれば、深部での掘削は採算がとれなくなります。単価の安いものは、地表で露天掘りが基本となります。
 日本で長く継続的に採掘できるような資源は少ないのですが、例外があります。石灰岩です。石灰岩は、日本列島の各地に分布しています。そして、その規模は大小さまざまですが、大きな石灰岩は、ひと山まるまる石灰岩からできていることがあります。そのような産地では、山がなくなるまで露天掘りで掘ることができます。石灰岩は、日本で100%自給できる特異な鉱物資源です。そして、輸出もしている資源となっています。
 ではなぜ、複雑な地質をもつ日本列島で、石灰岩を大量に採ることができるのでしょうか。それは、複雑な地質をつくるメカニズムにあります。日本列島は沈み込み帯にあたります。地質学では、島が弧状に並んでいるため、島弧とも呼ばれてます。島弧では、海洋プレートが海溝に沈み込み、付加体が形成されます。
 海洋プレート上にあった火山(海山や海洋島など)が熱帯付近にあったとすると、そこにはサンゴ礁が形成されます。サンゴ礁とは、サンゴ虫が炭酸カルシュウムの外骨格としたものが集まったものです。炭酸カルシュウムは分子名ですが、鉱物となると方解石、岩石名では石灰岩となります。小さいサンゴ虫なのですが、大量に長期にわかって生息していると、巨大な石灰岩の塊ができることになります。まさにチリも積もれば山となる。
 例えば赤道でできた海洋島がプレート運動で海溝まで運ばれてきたとしましょう。海洋地殻は出っ張りがないので、海溝では沈み込みやすくなっています。もちろん、一部は、付加体に取り込まれることもあります。一方、海洋地殻の上に出っ張っている海洋島、そしてその周辺に形成されたサンゴ礁は、沈み込みにくく、陸側に取り込まれて付加体になっていく可能性が大きくなります。つまり、付加体には、石灰岩が混じやすくなります。
 付加体に石灰岩がはいってくる理由は、このように説明できます。ただし、その条件として、赤道付近にまで広がっている海洋が存在すること、その海洋プレートが沈み込むこと、そしてそのような地質環境が長期に渡って維持されることです。そうすれば、付加体に大量の石灰岩が産することになります。この条件を、日本列島は満たしていたことになります。
 津久見には、太平洋セメント津久見工場があります。そこには、石灰岩を大規模に露天掘りをしている鉱山があります。人工衛星でみても露天掘りは、よくわかります。周りの山地が緑色をしてるのに、石灰岩を掘っているところは、白くなっており、白の中に道路が縱橫に走っているのが見えます。これが、露天掘りだと誰でもすぐにわかるものです。
 セメントの採掘には、単価が安い資源なので、産地が海に近く出荷しやすいこと、深度が深く良好な港ができることがなどの条件が必要です。津久見は、その条件を満たしていました。津久見周辺は、石灰岩が海の近くに分布し、地形がリアス式海岸となっており、水深も13メートルと深く、6万トンクラス貨物船が接岸できるような港ができました。
 古くから地の利に気づかれて、1917(大正6)年には桜セメント九州工場として採掘がはじまり、その後大分セメント、小野田セメント、秩父小野田セメント、現在の太平洋セメント大分工場津久見プラントへと名称は変わってきましたが、一貫して石灰岩の採掘がなされてきました。現在でも年間約1,100万トンの石灰岩を採掘しています。現在の石灰岩の埋蔵量から約40年間は稼働できると推定されています。そしてさらなる産地も考えているようです。工場付近には「セメント町」という名称もあるそうです。津久見はセメントで栄えてきた街です。
 日本では、各地に石灰岩の大きな採掘場がありますが、山奥だったりいい港がなかったりすることもあります。すると、輸送費や輸送設備などでコストが高くなり競争力が劣ります。津久見のように海岸近くで大規模な石灰岩の産地があるという地の利に恵まれたところは、そうそうないのかもしれませんね。
 今回は近くを通っただけで露頭に近づくことは、敷地内に入ることになるのでできませんでした。しかし外からでも、大規模な露天掘り、大きな工場、そして巨大な積み出し施設を眺めることできました。そしてその大きさには驚かされました。

・雪の不順・
北海道では、4月中旬の雪に驚かされました。
4月の雪は稀ではありますが、
時々あることです。
しかし、そのような天候不順が繰り返されると
変な気候だなと思ってしまいます。
今回の冬シーズンは、積雪が不順でした。
11月初旬の大雪があったかと思えば、
厳冬期には雪が少なくなり、
春の雨のあとに積雪と、
雪にまつわる不順な状態が
強く記憶に残っています。
北海道は、これから一番いい季節になります。
春は、気候不順にならなければいいのですが。

・新年度のスタート・
大学の講義も始まり、一週間がたちました。
最初の講義は、何年やっても緊張感があります。
緊張感と慌ただしさが新学期、新年度にはあります。
これが新学期の営みでもあります。
大学だけでなく、すべての学校や組織でも
このような状態になっていることと思います。
皆さんの属しておられる組織では
無事に新年度をスタートできたでしょうか。