2013年6月15日土曜日

102 乙部:センス・オブ・ワンダーの導火線

 人は、自然のいろいろな素顔に感動をおぼえます。もちろん、人の側にその自然を感じる「心」が必要ですが。でも、だれもが感動する自然もあるように思えます。そんな多くの人のセンス・オブ・ワンダーに火をつける導火線のような自然として柱状節理があるのではないでしょうか。

 自然には、いろいろな造形があり、大きいものから小さいもの、形状や色、繰り返しやシンメトリーの妙、孤高の美など、いろいろなものがあるでしょう。そのような自然の中にある不思議さに感動する心、センス・オブ・ワンダーは、多くの人に綿々と受け継がれているはずです。琴線は人それぞれで違っているでしょう。しかし、多くの人が感動するであろう(少なくとも私にはそう見える)ものがあると思います。地質学的造形として、柱状節理がその一つになるのではないでしょうか。マグマが織りなした造形の妙が、多くの人のセンス・オブ・ワンダーの導火線になりそうな気がします。そんな景観を紹介しましょう。
 前回に続いて、舞台は道南です。渡島半島の根とも、渡島半島が松前半島と亀田半島に分かれるところ、日本海側にあたる爾志郡(にしぐん)乙部(おとべ)町です。人口約4000人、2000戸ほどの小さな町です。かつてはニシン漁で栄えたところなのですが、現在は水産業や農業を中心とする町です。
 乙部の名は、アイヌ語の「オトウンペ」、「河口に沼のある川」という意味に由来しています。乙部岳(標高1017m)に端を発する姫川の河口に町の中心があります。日本の多くの地方の町同様に、人口の減少が続いています。
 渡島半島の西側の海岸沿いを走る国道229号線は、「追分ソーランライン」と呼ばれています。崖があったり、トンネルがあったり変化に富んだ海岸線を縫って走っています。松前半島から海岸沿いに国道229を北上すると、いくつもトンネルがあります。ある岬の付け根を通るトンネルを抜けたところが、今回取り上げる地です。その岬は、鮪(まぐろ)の岬、「鮪ノ岬」と書いて「しびのさき」と読みます。
 シビとは、マグロのことで、古くから使われている呼称のようです。本マグロは出世魚で、40kgあるいは1m越えるものをシビマグロとよばれたそうです。鮪ノ岬の景観は、北海道の天然記念物(1972年)に指定されており、岬の形がマグロの背に似ていること、岩の様子がマグロの肌に見えることなどから、名付けられたようです。近くには「潮見」や「豊浜」などの昔の漁業に関する地名もみられます。
 鮪の岬のトンネルと抜けると、トンネルの壁面に不思議な景観が広がります。北からトンネルに向かうと、その異様さは嫌でも目に飛び込んでくるでしょう。南から来ると、眼に入ることなく、見過ごすかもしれません。注意が必要です。
 「異様さ」と書きましたが、私にとっては異様ではなく馴染みのある、いや好きといっていいような景観です。柱状節理と呼ばれるものです。
 この景観は、上下2つに分かれています。下部は、長さ10mほどの柱がたくさん連なっている典型的な柱状節理です。上部は、多数の柱の断面が見える形で集まっています。上部が一部湾曲して見えることから、「車岩」とも呼ばれています。
 岬の付け根(トンネル)から、先端に向かって二段構造が整然と続いています。岬は海に向かってゆるく傾斜して、海に入り込むような形になっています。その傾斜は、マグマの形を反映したものだと思われます。鮪ノ岬の柱状節理は、日常みることのない異様さですが、壮観でもあり、センス・オブ・ワンダーを感じます。
 柱状節理の「節理」とは、岩石に見られる規則的な割れ目のことです。ただし、断層のようなズレがない割れ目のことをいいます。一般には、マグマからできている火山岩や熱い火山灰が厚くたまったところ(溶結凝灰岩と呼ばれます)に、節理がよく見られます。
 火山岩とはいっても、マグマが地表に噴出したものではなく、地表の近くですが、噴出することなくゆっくりと冷えていく条件が必要です。地下深部だと節理はできずに割れ目のない塊状の火成岩、深成岩になります。マグマの性質もある程度は関係します。玄武岩から安山岩の組成のマグマでよく見れられるようです。鮪ノ岬では、マグマは安山岩質です。
 このような条件を満たすものは、貫入岩と呼ばれるものが多くなります。マグマが、ある程度の大きさ、幅をもって、地下の比較的浅所に貫入し、地表よりはゆっくりと冷えていった場合、節理が発達した岩石になります。複雑な条件なので、どこにでもできるものではなく、できたとしても、ひと目に触れなければわかりませんから、それなりの侵食も必要になります。ですから、稀で珍しい景観といえます。
 特に綺麗なものは、鮪ノ岬のように天然記念物になることもあります。有名な所では、マグマによる節理は、福井県の東尋坊(とうじんぼう)や兵庫県の玄武洞、鳥取県の三徳山などで、溶結凝灰岩では北海道大雪の層雲峡、宮崎県の高千穂峡などがあり、いずれも国の名勝や天然記念物になっていて、観光の名所ともなります。
 節理ができる原因は、マグマが岩石として固まるとき体積が少し縮みます。その減った分が割れ目、節理となります。マグマが固まるときの形と冷えるときの冷え方によって割れ目のでき方が、いろいろな形状となります。一般に冷える面にたいして垂直方向に節理ができるようです。
 長く柱状になって節理ができたものを、柱状節理といいます。他にも板状、方状、放射状などの形状ができることがあります。
 鮪ノ岬では、下半分が柱状節理の典型となっています。上部は柱状の断面が見えているので、ものもとは水平方向に延びていた柱状節理だったはずです。もしかすると、柱状部分の長さも短かったのかもしれません。「車岩」と呼ばれることから、丸く車の一部もようだったかもしれません。それが、侵食や地殻変動によって切り取られて、現在の姿になったようです。節理は割れやすいので、トンネルの周辺はコンクリートで補強されていますが、海岸沿いは自然のままの姿を見ることができます。
 遠目で見ると、人工物のような不思議な景観をかもし出している柱状節理ですが、よく見るとその形はさまざまです。本来、マグマからの堆積収縮がおこれば、断面が6角形の柱状節理になりそうに思えるのですが、そうではありません。柱の形は、5角形が多いようですが、他にも4角形や6角形もあります。また、正4角形、正5角形、正6角形になっていものはひとつもなく、不規則なものが組み合わさっています。しかし、全体としてみると整然と柱が密集して並んでいるように見えます。不思議な景観です。
 私は、各地でこのような節理をたくさん見てきました。見たことのないものまだまだ多数あります。でも、どこの節理をみても、感動を覚えます。その背景にあるマグマや冷却のメカニズムを知っていたとしても、その不思議さは薄れることはありません。
 これからも、私はたくさんの柱状節理を見ることでしょう。そして多分同じように新鮮な驚きをもって、節理をみることでしょう。これは私の心の問題ではなく、節理には、センス・オブ・ワンダーの導火線が内在しているではないでしょうか。

・教員採用試験・
小学校の運動会も一段落して、
大学では、学祭が開かれています。
ただし、我が大学は、秋ですので、
春は穏やかなものです。
学部などの運動会やオープンキャンパスなどが
つぎつぎと催されていて、
大学で土・日曜日が、静かになることはなく
賑やかではあるのですが。
私の学科は、教育実習がつぎつぎとありました。
来週で一段落します。
今月末の日曜日には、教員採用試験があるためです。
4年生は落ちつかない日々が続きそうですが、しかたがありません。
就職活動をしている学生は、
もっと長い期間、頑張り続けているのですから。

・異常な天気・
嫌な日が数日続くと、すぐ今年異常な天候だと思いがちです。
とはいいなががら、
やはり今年は本当に異常な天候が続きます。
6月になって心地よい快晴がつづき、
日照時間が例年にないよさだったのですが、
曇りで、少し雨が降った日、
まるで梅雨のような蒸し暑さになりました。
エゾハルゼミも鳴いているせいか、
蒸し暑さがよけいに募ります。
今年の北海道は春が短く、
一気に夏になってしまいました。
そして、こなくてもいい梅雨のような天気もきました。
こうなると、異常気象という言葉がよぎります。
先日までの好天の連続を、
すぐに忘れてしまうんですね。