チャートは静寂な環境で、少しずつたまったものです。まさに「チリも積もれば」層状チャートになるのです。しかし、層の境界は、激変によって形成されたものです。層状チャートは静寂と激変の記録なのです。
ここ数年、層状チャートに興味を持っているので、各地で典型的なものをみて周っています。時代の違うもの、違う地域のもの、産状が違うもの、あるいは特徴のあるものなど、いろいろなバリエーションを見ています。露出がいい露頭で、きれいな層がみえると、観察していても楽しくなります。そんなところは、何度も足を運びたくなります。今年の秋は、大分県で層状チャートをみました。ここも通いたくなる地になりそうです。
大分県津久井市の津久見湾に、網代島(あじろじま)があります。この島は、岸からすぐのところにあるのですが、潮が引いているときは歩いて渡れますが、満ちているときは濡れなければ渡れません。私は、潮の干満を事前に調べておいて、干潮に近い時間帯(朝一番)にでかけました。事前調査の甲斐があって、なんの苦労もなく島に渡ることができ、間にある岩石も見ることができました。網代島には、面白い履歴を持った層状チャートがあります。それに見ました。
チャートとは、珪質の硬い岩石で、白や赤、あるいは青みを帯びたものなど、様々な色合いのものがあります。層をなしていることが特徴となります。
チャートは、主に細粒の石英や石英の仲間のクリストバライトと呼ばれる鉱物や、結晶化していない(非晶質といいます)二酸化珪素などからできています。成分でみると、重量比で90%以上が二酸化珪素になるような岩石になります。石英もクリストバライトも無色の結晶なので、チャートは本来、無色や白色の岩石になるはずです。ところがチャートには多様な色があります。これは、チャートの構成鉱物によるものではなく、少量ですが含まれている成分に由来することになります。
チャートが層をなしているのは、チャートの間に、境界をつくるような別の物質が挟まれているためです。その物質も、泥岩や粘土岩、あるいは頁岩に分類されるものです。今では岩石になっているので、ここでは頁岩と呼びます。
そもそもチャートは、何からどのようにして出来たのでしょうか。海に生息しているプランクトンのうち、珪質の殻をもった生物からできたと考えられています。プランクトンが死んだり、エサとして食べられたりすると、遺骸や食べた生物の糞として、海の中を沈んでいきます。これがマシンスノーと呼ばれるものになります。死骸や糞が海中を落ちていく途中、あるいは海底に沈むと、有機物は分解してき、硬い殻の部分だけが残ることになります。そして、珪質軟泥(珪質で固まっていなドロ状のもの)とよばれるものが形成されます。
同じ仕組みで、石灰質(炭酸塩)の殻をもつプラントンもいます。そのような遺骸が海底にたまったものを石灰質軟と呼びます。海底には、珪質軟泥と石灰質軟泥が、広く沈殿していることが知られています。
どちらの軟泥が溜まるかは、海底の環境によって決まります。石灰質軟泥は、ある深さになると溶け始めます。場所や環境によってその深さはかわりますが、深海底では溶ける環境となっています。一方、珪質軟泥は、浅い海では溶けやすいのですが、深くなると溶けることがなくなります。ですから、深海底では珪質軟泥た堆積し、浅い海底では石灰質軟泥が堆積することになります。チャートは深海底でできた珪質軟泥が固まったものだと考えられています。
では、境界の頁岩は、どのようにしてできるのでしょうか。頁岩の起源は陸の細粒のチリです。風や海流にのって運ばれてきたもので、陸源の微細粒子です。量は少ないのですが、定常的に降ってきているものです。ただし、風向き、海流、大陸の配置などに影響をうけるのですが、現在の深海底でも多いところと少ないところがあります。
次にチャートの層の成り立ちについてです。珪質軟泥がたまっているところに、量は少ないのですが、頁岩の材料も常に届いているはずです。しかし、珪質軟泥が溜まっているときは、頁岩が少ないので目立たなくなっていると考えられます。そして、珪質軟泥がたまらない時期が長期間続くと、頁岩が溜まると考えられています。
層の間隔は不規則で、チャートの幅(厚さ)も、境界の頁岩の厚さもいろいろです。チャートと頁岩の起源を組み合わせて考えると、海洋のプランクトンの大絶滅、それも長期間継続した時に境界の頁岩堆積するというシナリオが考えられます。やがて珪質の殻を持つようなプランクトンが復活すると、チャートが溜まり始めることになります。
チャートが溜まるときは生物が繁殖している時で、境界の頁岩が溜まる時は生物の大絶滅が起こっている時となります。その大絶滅の繰り返えしが、層状チャートをつくるというのが、従来の定説です。
これには異論もあります。その一つに宇宙からの隕石の衝突による説があります。平均すると2万年ごとくらいに大きな隕石の衝突が起こり、それによって大絶滅が起こるという説です。隕石衝突の繰り返しが、層状チャートの起源だとする説です。その根拠になっているのが、チャートの中から見つかる小さな隕石のカケラ(宇宙塵といいます)です。いくつかの地域のチャートから大量の宇宙塵が見つかっています。網代島の層状チャートからは、2億4000万年前のもので、多数(約300個)の宇宙塵が見つかっており、今まで見つかったものとしては、一番古いものだそうです。
今回は、この衝突の現場を見にいきました。実際の宇宙塵は、20ミクロンほどのサイズなので、目で確かめることはできませんが、地質学の大きな発見があったところを見に来ました、生物の大絶滅を起こしたかもしれない衝突の現場、そんなことに思いを馳せながら露出のいい露頭を眺めました。網代島の対岸には泥岩があり、三畳紀前期(2億5000万年前)ものです。この時代は、P-T境界(古生代と中生代の境界)の地球史上最大の絶滅が起こった時代の直後にたまった地層もあります。少し時代がずれますが、いずれも地球の大激変の記録となっています。静寂の深海底でゆっくりとたまったチャートなのですが、激変の記録が残されているのです。
・初冠雪・
北海道の里山にも、とうとう雪が降りました。
前日が山で降りだした雪は、
翌日には山並みを真っ白に変えました。
手稲の山並みでは、初冠雪となりました。
いよいよ冬の到来が近づいてきました。
しかし、まだ紅葉は終わっていません。
雪虫もまだ少ししか飛んでいません。
秋が終わっていません。
もう少しの間、秋を楽しみたいものです。
・再訪へ・
はじめての地は、露頭の様子がわかりません。
論文だけ見ていると、状況がわからいことも多くあります。
データしか表記されないこともしばしばです。
そんなとき、現地を訪れて、
予想以上の露頭に出くわすと、思わずワクワクします。
今回の網代島もそんな露頭になりました。
アプローチも簡単で、干満にさえ注意すれば
落ち着いて観察することができます。
次回は、論文を読み込んで、訪れたいものです。