2018年11月15日木曜日

167 新冠:判官が見た地層

 新冠川の河口の右岸には、切り立った崖があり、垂直の地層がでています。崖は線路も通っているのですが、トンネルが穿れています。そんな地層を眺めながら、運休中の線路と判官に思いを馳せました。

 先日、襟裳岬を回る野外調査に出ました。札幌圏からは、自動車道の日高道を通り、日高厚賀までスムースにいくことができます。しかし、9月6日の地震の影響でしょうか、高速道路ですが、段差が多数あり、あまり高速では走れなくなっていました。高速道路が伸びているので、静内や浦河方面へは、行きやすくなりました。以前なら、静内まで車で半日かかっていたのですが、今なら高速に乗れば、2時間ほどで行くことができます。
 交通手段としては、JR北海道の日高本線があるのですが、しばらく運休状態が続いています。日高本線は、2015年1月、爆弾低気圧が発生して高波によって線路の土が各所で流され、列車が運行できず、鵡川から様似の間が運休しました。その後、2015年9月には台風によってさらに被害が増大し、2016年にも台風が連続して襲来して、またも被害が増えました。2018年9月6日には、北海道胆振東部地震で厚真川の橋が壊れて、苫小牧から鵡川の間も運休しました。苫小牧から鵡川の間は、12月には復旧するとの見込みですか、それより先の復旧がどうなるかは未定ですが、なかなか難しそうです。
 日高の調査では、まず新冠に立ち寄ることにしていました。着いたのは8時前でしたが、天気がよかったので、判官館(はんがんだて)森林公園にいくことにしました。ここには何度か来ていたのですが、岬の先端まではいったことがなかったので、好天につられて、でかけることにしました。
 判官とは源義経のことで、史実では奥州の衣川の戦い(現在の岩手県平泉)で破れ自害したことになっていますが、北海道まで逃れてきたという伝説があります。蝦夷地で最初の上陸がこの地で、「判官館」と呼ばれています。伝説では、しばらここに住んでいて、連れてきていた鷹で「静御前」に手紙を送ったところ、頼朝にバレたため、この地から逃げたとされてます。北海道には、いくつか、そのような義経伝説の地がありますが、ここもそのひとつです。
 公園の道路を進んでいくと、公園を抜けて最も奥にいくと、地域の墓地があります。そこに車を止めて、岬の先端までいく散策道を歩きました。散策道は林の中や湿原を通ります。紅葉の終わりで、静かな心地よい天気でした。土曜日でしたが、朝も早かったためでしょうか、それともここはもともと人があまり来ないのでしょうか、誰にも会いませんでした。岬には休憩所があり、景観を眺めることができました。私は、海岸沿いの地層が見えないかと期待していたのですが、線路の上の崖にあたるため、コンクリートが巻かれていて、地層をみることはできませんでした。
 次に、海岸へ向かいました。判館舘の海岸へ向かうには、国道235号線(浦河街道)から、新冠川沿いの道に入ります。道を奥まで行くと、行き止まりになっていますが、そこから歩いて海岸へいけます。海岸では、崖があり露頭が見られます。ただし、JRの線路を越えて海岸に出ることになります。鉄橋の下を通ることもできますが、今は鉄道が運休中なので、線路を横ぎる踏み跡もあります。そこを越えていくと、崖をくり抜いたトンネルがあります。
 線路を越えているとき、トンネルを通り抜けてくる人がいました。声を掛けると、この線は復旧の見込みはなさそうだといいます。トンネルを通り抜けて釣り人がしょっちゅう通っており、向こう側も釣り場となっているとのことです。ただし、今日は誰もいないとのことでした。
 私もトンネルと通り、向こう側にいきました。しばらく線路を歩きましたが、ここの線路も波に洗われて浮いているところ、曲がっているところなども見えました。それれ加えて、使われなくなって雑草が生い茂る線路は、侘しさを一段と増しました。私は、線路をあることで、判館岬の上からが見ることができなかった崖を間近に見ることができました。ただし、地層自体は海岸からのほうがよく見えます。
 新冠は、泥火山が有名で、以前このエッセイでも紹介しました。今回は海岸の地層を見ました。海岸は、急な崖になっています。線路も崖の脇を海岸を通ったり、トンネルを通ったりします。新冠ではこの付近だけが険しい地形となっています。海の波によって侵食されて、海食崖と呼ばれるものになっているためです。
 侵食された崖のおかげで、地層をよく見ることができます。1300万年前(中新世中期)に海底で堆積したもので、元神部(もとかんべ)層と呼ばれるものです。それほど硬くない堆積岩です。一枚一枚が厚い地層になっています。ほとんどが、礫岩や砂岩からできています。斜交葉理が発達する礫岩から砂岩の層、平行葉理のある砂岩の層、厚い砂質礫岩の層などが見られます。この地層は、日高山脈が上昇したとき、山脈から運ばれてきた土砂が当時の扇状地から沿岸で堆積したものだと考えれれています。
 ここの地層は、ほぼ垂直に立っています。地層はもともとは水平に溜まってきます。日高山脈の上昇にともなって、周辺地域では、地層にいくつもの褶曲ができました。その褶曲で、ここでは直立しているところに当たります。
 新冠川沿いの道には、ユースホステル(ファンホース新冠)があるのですが、現在は閉館しています。卒業研究で静内川上流を調査しているとき、原付バイクで何度か往復したので、長い時間かかりました。その行き帰りには、このユースホステルをよく利用させていただきました。さらにその奥には、新冠町日高判官館青年の家があります。なつかしさもありましたが、高速道路が伸びたので、新冠も近くなり、判官の見たかもしれない地層が非常に近くなったという感慨がありました。

・カメラ・
新冠川の河口では、釣り人以外にも
定期的に来られている方がいました。
私が車に戻ったき、
超望遠レンズをつけたカメラを持った人にも会いました。
その方から、鳥ですか、と聞かれました。
私も露頭写真を取るために
一眼レフカメラをぶら下げています。
そのために聞かれたのでしょう。
そしてこの地が鳥の撮影にいいのでしょうか。
私は、景色です、といいました。
ここには自然が豊富に残っているところです。

・サケの遡上・
サケの遡上がまだ続いているようです。
この時期、大きな河川沿いを歩いていると、
大きな魚が跳ねます。
新冠川の河口でも大きな魚がはねていました。
また、静内川の中流にもいきましたが、
そこでも大きな魚なの影がみえるところがありました。
またサケが遡上し産卵しているようです。
新冠川も静内川も上流に大きなダムがあるので、
あまり上流にはいけないはずですが、
どこからの支流で産卵しているでしょうね。