2007年2月15日木曜日

26 羊蹄山:富士は数あれど 2007.02.15

 富士山が日本を象徴する山であるように、羊蹄山は北海道を象徴する山です。そんな羊蹄山を詳しく見ていくと、そこには代替ではない固有のモノがありました。

 羊蹄山(ようていざん)は、北海道の南部にあります。成層火山です。周りの山から独立しているためた、より雄雄しく、そして気高く見えます。羊蹄山は、富士山と同じように、円錐形の非常にきれいな形をしています。そのため、蝦夷富士とも呼ばれています。北西にあるニセコの山並みがごつごつした山並みであるのと、羊蹄山は比べると非常に「たおやか」な山容に見えます。
 私は羊蹄山に登ったことはないのですが、何度も見たことがあります。北海道の人が羊蹄山に対して抱く気持ちは、関東や東海、中部地方の人が富士山を見たときのものと同じです。私は、以前神奈川県の富士山が見えるところに住んでいたので、両方を見て感じたことです。
 北海道で羊蹄山をみても、同じように感動します。富士山と同様に、羊蹄山も眺める対象として非常に優雅であります。それは、独立して存在する成層火山に共通するものかもしれません。
 大きな成層火山の麓には、湧き水がいたるところにあります。羊蹄山の麓にも、名水として有名な京極の「ふきだし」公園をはじめてとして多数の湧水があります。湧水は年中枯れることなく湧き出しています。
 また、羊蹄山の山麓には、畑が広がっています。それは、羊蹄山の火山噴出物が風化をして肥沃な土壌になっているからです。これも成層火山では役見られるものです。
 同じ成層火山である羊蹄山と富士山は、一見すると似ていますが、よく見ると違いもあります。羊蹄山より富士山の方が、より「たおやか」に見えます。それは、気のせいでしょうか。多分それは、羊蹄山の方が傾斜が急で、険しいからです。富士山の高さに比べて裾野の広がりが広く、羊蹄山は裾野が狭くなっています。そのため、富士山の方が、たおやかにみえるのでしょう。
 このような形は、火山をつくったマグマの性質を反映しています。富士山は玄武岩質のマグマでできているのですが、羊蹄山は安山岩質のマグマでできています。その違いが、このような山容の違いを生んでいます。
 マグマの岩質の違いは、温度や化学成分の違いを表しています。そして、溶岩などのマグマに由来する噴出物の物理的な性質の違いを生みます。
 マグマの温度が高いと流れやすくなります。物質の流れやすさを粘性と呼びます。粘性は、物質に力を加えてときに生じる物質内部の摩擦力の大きさで、新しいSI単位系ではパスカル秒(Pa・s)ですが、昔はポアズという単位が使われていました。1パスカル秒は10ポアズとなります。水でも0℃の時(0.018ポアズ)と100℃の時(0.003ポアズ)を比べますと、100℃の時の方が6分の1くらいの粘性しかありません。
 また粘性は、化学組成によっても変化します。マグマの主要成分である珪酸(SiO2)は、普通のマグマでは重量で半分以上を占めます。この珪酸が少ないと粘性は小さく、多くなると粘性が大きくなります。これは珪素(Si)の酸素(O)の結びつきが多いほど粘性が大きくなるということです。珪酸が少ないと、他の元素(主に金属元素)が増え、珪素と酸素の結合を拒んでいるということになります。
 さてこのような一般論をもとに、富士山と羊蹄山のマグマを考えていきましょう。富士山は玄武岩質マグマからできていました。一方羊蹄山は安山岩質マグマでした。温度で見ると、玄武岩質マグマは約1200℃、安山岩質マグマは1100℃ほどです。ですから、温度からすると玄武岩質マグマの方が粘性が低くなります。また、玄武岩の珪酸の含有量は、重量で50%程度で、安山岩では60%程度です。化学成分から見ても玄武岩の粘性は小さくなります。
 以上のことから、富士山のマグマは粘性が小さく流れやすく、羊蹄山のマグマは粘性が大きく流れにくくなります。流れやすいマグマからできた富士山はなだらかな山容となり、富士山のマグマと比べれば流れにくいマグマからできた羊蹄山は、険しく見えます。このようなマグマの性質の違いが、山の姿の違いとして現われています。
 考えてみると、非常に基本的な違いですが、マグマの化学成分や温度の違いが、火山の姿に個性を与えていることがわかります。さらに火山に個性を与えているのは、活動の履歴の違いです。羊蹄山には羊蹄山の個性があります。
 その個性の一つとして、山麓の景観があります。その景観には、今まで知られていなかった火山の存在を解き明かす証拠がありました。
 羊蹄山の山麓の地形図をみていると、ニセコ側、つまり西側にごつごつした地形が特徴的に見られます。数10mから数100m程度の小高い高まりが、不規則に散らばっています。これは、流山(ながれやま)地形と呼ばれているものです。
 かつて羊蹄山が大噴火したときに、火山体を壊れたものが雪崩のように流れ下った(岩屑なだれと呼ばれています)と考えられています。この流山の高まりをつくっている岩石は、現在の羊蹄山をつくっている火山岩(ソレアイト質)とは、だいぶ違った性質のもの(カルクアルカリ質)であることが分かってきました。そのため、現在の羊蹄山より前に、タイプの違う火山活動によってできた火山があったと考えられています。
 この古い火山は、「古羊蹄山」と呼ばれています。10万年前~5万年前に活動をして、今の羊蹄山よりやや小ぶりの火山をつくっていたと考えられています。そして、約4万5000年前に、古羊蹄山の西部が、噴火によって大規模に崩壊しました。それが、現在、西の山麓に広く分布している流山となっていると考えられています。
 しかし、4万5000年前から1万年前にかけて、現在の羊蹄山(新羊蹄火山と呼ばれています)が活動を開始して、古羊蹄火山を完全に覆い隠してしまいました。ですから、現在では流山以外に、古羊蹄山の露頭はどこにも見ることができません。
 1万年前以降は、山頂だけでなく、北側山麓でも噴火(側火山と呼ばれます)が起こりました。半月湖から巽(たつみ)にかけていくつかの火砕丘が見られます。一番最近の活動は、巽火砕丘で約6000年前のものです。それ以降、羊蹄山の活動は知られていません。
 でも、火山学者たちは、一般的な火山の一生からみて、羊蹄山はまだ完全に成長しきっていない火山だと考えています。ですから、現在は活動は休止していますが、将来、新たに活動時期が訪れると考えています。
 日本各地には、成層火山があり、○○富士と呼ばれています。それぞれの富士には、その富士固有の性質があります。その個性は、火山の姿や周囲の地形、岩石などから探ることができます。そして個性から、火山の生い立ちや履歴が解明されていきます。蝦夷富士には、蝦夷富士の生い立ちがあることがわかってきました。

・代替ではない・
実は羊蹄山は、今年の正月の話題にしようと考えていました。
ですが、連載の順番が北海道ではなく、本州の番だったので、
しかたなく、2月にまわしました。
私が本州から離れてもう5年近くたちます。
ですから、富士山を見る機会が少なくなりました。
かわりに蝦夷富士を見る機会が多くなりました。
でも考えれば、羊蹄山は富士山の代替品ではありません。
固有の生い立ちを持ち、固有の特徴をもっています。
だから、羊蹄山そのものを愛でるべきでしょう。
富士山には富士山のよさ、羊蹄山には羊蹄山のよさがあるはずです。
その個性を重んじて、個性を愛でるべきでしょう。
これは、人を見る時、人が生み出したものを評価する時に
持っているべき視点でしょうか。

・模様替え・
大学は一般入試も終わり、卒論発表会も終わり一段落です。
私は、来週には研究室の模様替えをしようと考えています。
今まで、不便だと考えていたことを解消しようというのが
今回の模様替えの目的です。
しかし、荷物が増えているために、すぐにはできません。
また、ロッカーなどは中身をすべて抜いても、
一人では動かせないものもあります。
ですから家内に応援を頼んで、半日がかりでやろうと考えています。
来週の早い時でないとだめです。
今週は予定がつまっているため、来週でないとだめです。
また、下旬や翌週になると3月早々締め切りの申請書があります。
ですから、来週早々でないとだめです。
その時はサーバーなどもすべての電源を切って
配線もしなおすつもりです。
早めに予定を入れて、大々的にやろうと考えています。