2022年9月15日木曜日

213 水無浜:幻の温泉

 秘湯というと、人があまり訪れないような、不便ところに多いのですが、今回紹介するのは、アプローチはしやすい温泉です。舗装された道もあり、設備も整っている無料の露天の温泉です。そこは、幻の温泉と呼ばれています。
 温泉に入ることが目的で出かけることありません。ただし、宿泊する時は、温泉旅館があれば、そちらを優先しますが。地質調査で奥地に入ると、秘湯と呼ばれるところへや、だれも知らないようなところで温泉や湧水も見つけたこともありました。調査中に、裸になって入ることはありません。今回も秘湯を訪れたのですが、入りませんでした。
 道南には椴法華(とどほっけ)という名の村がありました。2004年には函館市に併合されました。北海道に来てすぐに訪れた時は、椴法華村でした。その後、2007年に訪れた時には、函館市になっていました。今回、椴法華の幻の温泉を訪れたので、紹介しましょう。
 道南では函館が一番の都会ですが、少し外れると人家は少なくなっていきます。函館の西には、大千軒岳(だいせんげんだけ)を主峰とする深い山並みが広がります。東には、恵山(えさん)から駒ケ岳(こまがたけ)に続く活火山の山並みがあります。いずれも山深いなので、函館から少し離れると鄙びたところなります。
 海岸近くに恵山があるため、海岸は断崖になっており、道が途絶しているので、海岸を周回することはできません。道路は、恵山の西裾を通っています。恵山の東部は、行き止まりの道路となり、不便なところなります。しかし、そこには観光名所があり、恵山に由来する温泉もいくつかあります。
 南側から回ると、恵山に登るための登山道があります。北側からまわっていくと、道の一番奥が一方通行のループになっており行き止まりです。そこに無料の露天風呂があります。水無海浜温泉と呼ばれるもので、少々変わっています。
 水無海浜は、古くからその存在は知られているようで、椴法華村史(1989年発行)によれば、松浦武四郎の蝦夷日誌の1847(弘化4)年5月に、
「水無濱、少しの砂浜、水無より此名あるかと思う、昆布取小屋有、人家も二、三軒、近来漁事の便りなるが故にここに住すとかや」
と記されていることから、江戸時代には、水は出ない浜なのですが、ここに人が住んでいて、昆布取りや漁を営んでいたことがわかります。人が住んでいたのなら、温泉の存在も知られていたのでしょう。
 水無海浜温泉は、現在も無人の露天風呂で、だれでも自由に無料で入ることができます。夏場だと、時間外でも海水浴は可能でしょうが、岩場なので泳ぐよりは磯遊びをするところでしょうか。
 ただし、入浴できる時間帯が限られていて、日によって変わります。潮が満ちてくると、海水が風呂の縁を越えて、湯船に入り込むため冷たくなり、湯船も見えなくなります。また、干潮時には温泉そのものの温度になるのですが、源泉の温度50℃になるので、今度は熱くて入れなくなります。ですから、干潮の満潮の間の時間だけが適温となります。入れる時間帯が限られることもあって、「幻の温泉」と呼ばれています。
 潮の関係で、1日1回しか入れない日も、3回入れる日もあります。また、入浴可能な時間が10時間のこともあれば、2時間ほどしか入れない時間もあります。潮任せなので、温泉に入りたいのであれば、事前に調べておくべきでしょう。
 水無海浜温泉は、古くから知る人ぞ知る温泉です。1918(大正7)年の郷土誌には、
「恵山麓字水無ノ海岸ニ湧出ス此温泉ハ極メテ僻陬(ヘキスウ)ノ地ニアリ潮来レバ水ニ浸ルヲ以テ湯泉場トシテノ設備ナシ。」
と書かれています。当時は、温泉が出ていて、潮がひた時にしか利用できず、温泉場としての設備もなったようです。
 それと比べれば、現在は男女別の脱衣所もあります。湯船も2箇所で3つあり、縁の高さが変えてつくられています。そのため、温度に違いがあり、入れる時間が長くなっているのでしょう。今では入れる時間帯が示された表が、温泉の脱衣場の近くに掲示されています。ホームページでも確認できるようです。
 しかし、湯船は海岸に開放的にあり、男女の区別がない混浴で、「産まれたままが最高」と看板には書いてあります。ただし、水着をつけてもOKと書いてありますが。
 訪れた時はだれもいなかったのですが、露頭や温泉を観察していると、男性3名が来て、裸になって温泉に入りだしました。他には人はいなかったので、「産まれたままが最高」の気分だったでしょう。私は、もっと温泉や周りの景観を撮影するためだったのですが、それもできなくなり早々に切り上げることになりました。
 階段や波除け、駐車場や脱衣場など、周辺は整備されています。2007年に来た時はゴールデウィークだったので、磯遊びと温泉を兼ねた地元の家族連れが多数来ていました。ですから、地元では知られていたのでしょうが、知る人ぞ知る温泉だったのでしょうね。

・短い夏休み・
先週から今週にかけてバタバタしていました。
重要な会議がいくつかあり、
4年生の卒業研究の指導、
と、ここまでは通常の業務です。
他に、研究授業での指導、本の原稿の入稿、
科学研究費の学内締切り、
そして、野外調査が重なっていました。
すべて先週に終わらせて、
今週は野外調査に集中しました。
来週から、いよいよ後期の講義がはじまります。
短い夏休みも終わります。

・必要とならば・
野外調査に出ているところは、
ほとんどが以前にいったところでの再調査です。
同じところでも、目的が違うので見方が違います。
写真は構図は異なりますが、
被写体は同じ露頭や産状が多くなります。
それでもいいのです。
必要となれば、何度でも訪れます。