2024年2月15日木曜日

230 十勝三股カルデラ:常にセンス・オブ・ワンダーを

 十勝三股カルデラは、10数年前に新たに認定されたものです。以前からカルデラの可能性は指摘されていました。新たな検討を加えて、確定されました。自然の中には、まだまだ未知のものが、隠されています。


 北海道は、地質学的に非常に興味深い地域です。野外調査で、同じところを飽きることなく、何度でもみていくことができます。昨年10月に、層雲峡から三国峠を下りました。その年ははじめてですが、このコースは、毎年のように通っています。
 三国峠から十勝側を眺めるのは、心地いいものです。峠を少し越えると、緑深橋の手前に、以前から駐車できる空き地はありました。そこは、側溝が深く、気をつけないと、車の底を擦ってしまうようなところでしたが、今では、駐車場ができています。そこから緑深橋まで歩けるように、ポールで簡易的な歩道ができていました。安心して歩いて景色を見にいくことができます。
 その橋からは、S字の優雅な松見大橋と、その向こうに十勝三股盆地の森林を見ることできる、絶景スポットになっています。ここを通るときはいつも降りて景色を見ています。今回は、10月だったので、高山では紅葉が終わりかけていましたが、十勝三股あたりは、まだ紅葉が残っていました。この大森林の場所が、十勝三股カルデラと呼ばれるところです。
 北海道は、日本は火山と山脈が連なる列島となっていますが、このような地域を地質学では「島弧」と呼んでいます。日本列島はいくつかの島弧が組み合わさってできます。北海道は、東北地域を形成している東北日本弧と千島列島から知床阿寒まで伸びる千島弧があり、それらが道央で衝突しています。島弧会合部と呼ばれる特異な地質場となっています。
 新生代後半には、北海道周辺において北米プレートとユーラシアプレートのプレート境界で、ジャンプが起こっています。このような地域は、北海道中央部以外ではみられることなく、地質学的に非常に特異で重要なところになります。
 新生代後半にプレート境界のジャンプは起こり、その時期に大規模な花崗岩質マグマの噴火も起こっています。花崗岩質マグマの噴火は、大規模なものも多くなります。大規模な噴火では、大量の火砕流や火山噴出物が放出され、遠くまで飛んでいきます。噴火したあとには、カルデラができます。
 十勝三股も盆地になっています。以前(1970年代)から、火山噴火によるカルデラの可能性が指摘されていたのですが、確定していませんでした。重カ異常の測定とその解析によって、15個ほどのカルデラがあることがわかってきました。そのうちのいくつかでは1 kmほどの直径の丸い陥没構造があります。
 十勝三股の盆地は、2008年の北海道大学の石井英一さんたちの共同研究で、「十勝三股カルデラ」だと提唱されました。
 新しく形成されたカルデラは、地形からすぐに見分けられるのですが、古いものになると存在がわかりくくなります。侵食で地形が不明瞭になったり、他の堆積物によって盆地が埋められたりしてわかりにくくなっていきます。
 十勝三股カルデラは、約100万年前(鮮新世以前~前期更新世)に陥没が起こって形成されました。しかし古い時代なので、浸食されて地形が不明瞭になっていき、盆地が湖となり、そこに堆積した十勝三股層ができて埋められていきました。そのため、カルデラの地形がわかりにくくなっていました。
 十勝三股盆地は、重力の異常が見つかっています。異常は、北東-南西方向に伸びた長方形(10kmx6km)をしていますが。その地域は、盆地を囲む外輪山の内壁(14kmx10km)があり、もともとカルデラがあったところと考えてよさそうです。
 地質学的にカルデラと確定するには、このカルデラ噴火で噴出した火山砕屑物との時代、量などと対応している必要があります。
 周辺に分布している無加(むか)溶結凝灰岩層、芽登(めとう)凝灰岩層、屈足(くったり)火砕流堆積物、黒雲母石英安山岩質軽石流は、分布、地層の厚さ(層厚)、噴出年代(約100万年前)、マグマの性質(花崗岩質マグマ)や鉱物の組み合わせや特徴など、さまざまな点で同じ火砕流だということが明らかにされました。
 また、大規模な花崗岩質マグマの噴火(プリニー式噴火)によってはじまり、降下火砕堆積物が降り、その後火砕流が発生しました。噴火当時の地形によって、北東方向には無加火砕流と留辺蘂火砕流が、南東方向には芽登火砕流が、南西方向には屈足火砕流が流れたことが、明らかにされました。
 今回紹介したように、地質学、あるいはすべての科学は、まだ途上です。自然には、未知のものがいっぱいあり、それを新発見をするチャンスはどこにでも常にあります。ふだん目にしている当たり前のものの中にも、不思議が隠されているはずです。自然の中に不思議を見つけられるかどうかは、それを見る人の問題です。常にセンス・オブ・ワンダーを持ち続けている必要がありますね。

・論文と著書を・
現在、大学は、後期の終わりで
在学生への成績評価と卒業判定などがあり
新入生にむけては入試の判定、
そして新学期の準備もはじまります。
教員は、時間が取れるので
集中して研究するチャンスとなります。
現在、論文の執筆と著書の執筆に
取り掛かっています。
論文に手こずっているため、
本の執筆が滞っていますが、
淡々と進めていくしかありません。

・休刊のお知らせ・
来年(2025年)の3月で大学を退職します。
その時に大学設置しているサーバも停止することになります。
このエッセイは画像と文章をセットにしています。
そのため、退職時、サーバの停止時が
エッセイの区切りとなるので休刊します。
以前は、退職でサーバの停止が、
エッセイの終了時期だと考えていました。
しかし、退職時に、サーバを廃止すると
ある時、突然サイトが見ることができなくなります。
事前にアナウンスしていたとしても
気づかない人には、突然サイトが消えることになります。
そこで、次回の3月号をもって休刊して、
1年間サーバにアナウンスを表示することにしました。
他にも理由がいつくかありますが、
詳細は次回のエッセイで紹介しよう考えています。