2019年10月15日火曜日

178 畳ヶ淵:龍が通った道

 山口県萩市の山奥に、龍が通った道があります。単独の龍が多数いたようです。龍は古来から何度も暴れたようです。山奥の龍とは、一体何だったのでしょうか。

 山口県萩市というと萩の城下町が、一番の観光地として有名です。また、近隣の地質の名所としては、南側にある美祢(みね)市に秋吉台があり、秋芳洞を中心としたみねジオパークが認定されています。
 萩も、ジオパークとなっています。萩市と阿武(あぶ)町、そして山口市阿東地域(旧阿東町で2010年に山口市に編入されたところも含まれていますが、もともとの一つの地区となっていたところ)が萩ジオパークの範囲となっています。萩ジオパークは、2018年9月20日に日本ジオパークに認定されました。昨年出かける予定をしていたのですが、北海道の胆振東部地震のため中止したのを、今年、調査にでかけました。そのおかげで、ジオパークに指定されたので、地質の見学地点(ジオサイトと呼ばれています)のルート整備や案内板なども設置されることになります。私のように地質現象の典型的な露頭を見ていくものにとっては、非常に助かります。
 今年の8月に九州北部で洪水を起こした豪雨にも晴れ間があり、その時間帯に、誰一人いない畳ヶ淵(たたみがふち)ジオサイトを訪れることができました。
 このジオサイトに着くと、広い駐車場もあり、地質の説明の看板もありました。田んぼの脇を通るのですが、道は整備されており、途中にトイレも完備され、川には橋もかかっています。非常にアプローチがしやすく、見学には適しています。
 畳ヶ淵は、奥阿武の地区に属し、田万川(たまがわ)沿いにある露頭です。川で岩が洗われているので、表面もきれいで見学には最適です。ここは非常にきれいな柱状節理がみられるところになっています。橋を渡って対岸には、きれいない柱状節理の断面を上からが見られます。角柱の断面が敷き詰められて畳ヶ淵と呼ばれているのも、頷けます。上流にも柱状節理が続いています。また、下流に向かうと崖があり、そこには直立した柱状節理が見ることができます。
 柱状節理は、大きなマグマの流れがあると、表面が冷えて固まっているのですが、内部のマグマはゆっくりと冷えていきます。液体のマグマと比べ固体の岩石(溶岩)は体積が少し縮みます。ゆっくり冷えると、岩石には割れ目ができます。その割れ目が内部にむかって進み、その断面は六角形になり、柱状節理ができます。断面は六角形が多いのですが、五角形やいびつな形になるものもあります。柱状節理のいろいろな断面が、畳ヶ淵では観察できます。すると六角形がおおいころ、しかしそれ以外の形やいびつなものもあることもよくわかります。
 伊良尾(いらお)山(641 m)から流れてきたマグマが、田万川に流れ込み、川沿いに「上の原台地」まで流れました。畳ヶ淵の柱状節理は、溶岩流の真ん中に当たります。この溶岩の流れたところを「龍が通った道」と地元では呼んでいるそうです。柱状節理が龍のウロコに見えたのでしょう。
 この溶岩は、伊良尾玄武岩と呼ばれるものです。この火山は一度しか噴火していません。このような火山を単成火山といいます。似たような単成火山は、奥阿武には約50個もみつかっています。多数の単成火山が活動しているので、「阿武火山群」と呼ばれています。阿武火山群のうち、伊良尾の溶岩は玄武岩質のマグマでしたが、玄武岩質から安山岩質までのマグマが活動しており、火砕丘、溶岩ドーム、溶岩台地を形成しています。いずれも小さな火山体となっています。
 伊良尾火山は、阿武火山群の中でも最も激しい活動をしたようです。まずスコリア丘ができ、その後溶岩を14kmに渡って流して「龍が通った道」となり、さらにスコリア丘が再度できたようです。
 この周辺では、190万から150万年前にすでに火山活動をしており(先阿武火山活動と呼ばれています)、その後しばらく活動を停止していました。活動を再開して、約80万年前から1万年前ころまで噴火をしていました。ところが、最新の噴火は8800年前であることがわかりました。その成果を受けて、2003年から、新たに活火山に指定されました。
 「龍が通った道」として最も下流側、伊良尾溶岩の最終地点には、龍鱗郷(りゅうりんきょう)と呼ばれるたジオサイトがあります。龍鱗郷は、地域に伝わる神楽にある蛇の舞や、柱状節理が龍の鱗のようみ見えることから、地元の中学生が考えて付けたそうです。龍鱗郷は、農免道路の工事しているとき見つかったものが保存されています。切り通しの崖が、道路の両側にでています。ここも駐車場があり、全景を見るために、崖の上に上がってみる展望台まで完備されています。
 展望台から全景を見ると、柱状節理がきれいに出ていますが、途中で節理の向きが変わっているのがよく見えます。コンクリートがあったり下草が覆っていて、道路や展望台からは見えにくのですが、解説板によれば、溶岩の下には、複雑な地質が見ることができるようです。
 柱状節理の溶岩の下には、200万から10万年前の溶岩があります。この溶岩は、古い田万川(古田万川といいます)沿いに流れ込んで、水の中で破砕されたもの(水中自破砕溶岩といいます)が薄い層をなして堆積しています。その下には、古田万川の河川の底にたまった礫や砂の層があります。さらに下流側の崖には、3000万年前に噴出した安山岩があります。
 この安山岩は、田万川カルデラと呼ばれる古い火成活動(白亜紀)のものです。田万川カルデラは、北東ー南西に14km長径をもち、短径が7kmの楕円形をしています。カルデラとは大規模なマグマの活動が起こったとき、大量のマグマが噴出したことで、マグマだまりが空になったとき、陥没してできら大きな窪地の地形です。この火成活動は、安山岩から流紋岩質の火山灰や火砕流堆積物を伴い、マグマ溜まりが固まった花崗岩も分布しています。ただし、古いものなので、カルデラ地形は残されていません。
 奥阿武地域では、田万川カルデラで激しい火成作用が起こり、続いて先阿武火山が活動し、現在は阿武火山群が活動を続けています。この周辺は、マグマの影響が、断続的に起こっていところだったようです。
 奥阿武の人たちは、溶岩が流れてできた柱状節理を見て、龍が残したものと考えました。龍とはマグマのことだったのでしょう。奥阿武では、何度が龍があばれ、通っていたのでした。今では、龍は神楽として地域で舞われています。

・画像より実物を・
今年の調査は、大半が雨の中でした。
幸い須佐のフォルンフェルスと畳ヶ淵だけは晴れていました。
須佐のフォルンフェルスは、
有名な露頭なので何度も写真を見ていました。
岩石の実感や地層のスケールなど
実物からでないと感じられないものがありました。
しかし、はじめて見る壮大な露頭は感動します。
畳ヶ淵はそのような画像イメージが
ほとんどない状態での観察だったので、
非常に感動しました。
一人で堪能できたので、
感動はいやが上にも増しました。

・ストーブへのハードル・
北海道は、雪虫も飛びました。
寒い日も時々訪れます。
そんなときはストーブを炊いてしまいます。
北国では、ストーブを常設しているため、
灯油も大きなタンクに蓄えられていて
ポンプでストーブへ配給しています。
ストーブの点火は、元栓を開け、電源を入れれば、
簡単におこなえます。
ですから、ちょっと寒かったら
簡単にストーブをつけてしまいます。
本州よりのストーブ着火のハードルは低いようです。