2023年12月15日金曜日

228 屋島と五色台:カンカンと鳴る石

 讃岐はうどん県として有名ですが、庵治石やカンカン石でも有名です。讃岐はカンカン石の産地で、古くからその特徴を活かして利用してきました。カンカン石は、特別なでき方をした大地の証拠になります。


 香川は、かつては讃岐(さぬき)と呼ばれていました。瀬戸内海に面したとこに、高松がある讃岐平野があります。讃岐平野の後ろには讃岐山地、東に五剣山や屋島の山並みがあり、西には五色台があり、その間に位置しています。讃岐平野は、もともと瀬戸内には雨が少ない上に、三方が山に囲まれているので雨がさらに少なくなります。そのため、農作物を作るために、多数のため池がつくられています。
 讃岐山地の南には、中央構造線沿いに吉野川があり、さらに南には四国山地が東西に長く伸びています。中央構造線は香川の西側では瀬戸内海に近づくため、香川と愛媛の高縄半島の部分が、瀬戸内海に突き出ています。
 この突き出た地域は、花崗岩が分布している地域になっていることに関係しています。四国で花崗岩が瀬戸内側に広がっている地域の南方には、室戸岬と足摺岬として、太平洋側に出っ張っている地域と対応しています。以前のエッセイ(221しまなみ海道:花崗岩の産状2023.05.15)で説明したように、花崗岩マグマが地表付近まで上昇している影響ではないかと考えられます。
 そこに、後に中央構造線が活動して(約300万年前から現在まで)、盛り上がって讃岐山地ができました。中央構造線の北側にある讃岐山地は、白亜紀末の海底で堆積した和泉層群からできています。約200万年前ころから隆起したと考えられています。
 讃岐平野の東西にある山地は、花崗岩と火山岩からできています。花崗岩は、領家帯に属し、白亜紀に活動した深成岩です。讃岐平野の東の小剣山の周辺には、庵治(あじ)と呼ばれ、良質の花崗岩がとれることから、現在でも石工が盛んです。
 火山岩は中新世に活動したもので、花崗岩に上に噴出しました。1300万年前に活動した火山岩は、屋島と五色台にあり、両者とも山の上部が平坦になっていて、周りは急な崖になっています。このような地形は、上にある水平な固い溶岩の部分は侵食には強く残っていき、周囲の柔らかい花崗岩の部分は激しく侵食されて急崖になっています。このように侵食差がある「差別侵食」によってテーブル状の地形をメサ(mesa、スペイン語でテーブルの意味)と呼びます。
 屋島では、花崗岩の上に一部は凝灰岩が挟んでいますが、安山岩質溶岩があります。五色台では花崗岩の上に安山岩質溶岩がありますが、間に凝灰角礫岩、凝灰角礫岩などを間に挟んでいます。
 これらの安山岩質マグマには特徴があり、サヌカイト(あるいは讃岐岩)や類似したものはサヌキトイドと呼ばれるもので、讃岐に特徴的に見つかったことから、明治時代のナウマンが命名したものです。地元では、サヌカイトや讃岐石と呼ばれ、各地で目にします。
 サヌカイトは、マグネシウム(Mg)が多い安山岩(高マグネシウム安山岩)と呼ばれます)で、古銅輝石(ブロンザイト bronzite)という鉱物を含んでいることも特徴です。一般に、マグネシウムが多いマグマは、珪酸(SiO2)が少ない玄武岩マグマなります。ところが、サヌカイトは、珪酸が多い安山岩の範囲(53から63%)にあるのに、マグネシウムが多いという特徴があります。このようなマグマは、マグネシウムの多い岩石(マントルのカンラン岩)が溶けてできたと考えられます。しかし、通常、マントルが溶けてできるのは玄武岩質マグマなので、安山岩質マグマができるためには、特別な条件が必要になりそうです。
 岩石を高温高圧にして溶かして結晶化させることで、どのような鉱物類(岩石)と一緒にあったかを調べることが実験(高温高圧実験)があります。その結果、高マグネシウム安山岩のマグマはカンラン岩と一緒にいること(共存といいます)できることがわかりました。さらに、カンラン岩に多くの水分が加わると、直接高マグネシウム安山岩のマグマができることも実験でわかってきました。
 高マグネシウム安山岩は、瀬戸内海に点々と見つかっていて、瀬戸内火山帯とも呼ばれています。他にも奈良の二上山も有名で、瀬戸内海沿いだけでなく、愛知県から四国、そして九州まで、中央構造線の北側に点々と活動しています。
 1700万年前ころ、日本海拡大が拡大して、大陸から日本列島が切り離され、フィリピン海プレートの海嶺(南北に伸びていた)の上にのし上がってきました。できてすぐの温かい海洋プレートに乗り上がりました。高マグネシウム安山岩のマグマは、水分を含んだ温かい海洋プレートが溶けてできたのではないかと考えられます。高マグネシウム安山岩は、非常に特異な地質条件が生まれた時にマントルでできました。
 サヌカイトは、結晶化をあまりせず、ガラス質の基質になっています。割れ口が鋭くなることから、縄文時代から弥生時代には石器として用いられてきました。非常に緻密で、叩くの金属質のカンカンといういい音がすることから「カンカン石」と呼ばれ、土産物にもなっています。
 サヌカイトは、もともと限られた地域に分布する火山岩です。さらに、いい音のするカンカン石の産地は限られています。カンカン石は特別な石です。カンカンという音には、古い時代の特別なマントルからの響きがあるのかもしれませんね。

・正式名称・
IUGA(が国際地質科学連合)では
化学組成にしたがって、
火成岩の分類はおこなうことにしました。
サヌカイトは、正式には、
単に安山岩か、高マグネシウム安山岩
という分類名になります。
また古銅輝石という鉱物名も
正式には使われなくなりました。
頑火輝石(エンタタイト)から
鉄珪輝石(フェロシライト)を
両端の成分として混じったもの(固溶体)として
表現されるようになりました。
科学において一般化や普遍化は、
重要になりますが、
過去の文化や歴史も消えるようで
少々寂しく感じます。

・石の民俗資料館・
庵治の近くに
石の民俗資料館もありましたので、
見学にいきました。
9月上旬の暑い時期の平日だったためか
見学する人も少なく、
落ち着いてみることができました。
昔の石工たちの技術の凄さを
感じることができました。