2014年11月15日土曜日

119 むつ湾を抱く下北半島

 下北半島に取り囲まれ、津軽海峡とつながるむつ湾は、穏やかな海の佇まいからは想像できない複雑な大地の歴史を持っています。むつ湾は、下北半島に抱かれるような形をしています。

 秋に校務で青森に出かけました。1泊2日の慌ただしい出張でした。青森空港から、陸奥湾を望むむつ市に、レンタカーで向かいました。そこが校務の目的地でした。長い道中でしたが、カーナビの示す時間より1時間ほど早く着くことができました。その時間を考えると、校務を終えてむつ市から出発すると、カーナビの必要時間では、空港に着く時間が飛行機の出発時間には間に合わない時間でした。少々心配でしたが、行きにかかった時間をみると、かなり余裕をもっていカーナビの時間は設定されていたことがわかりました。帰るときも、自動車道やローカル道路は空いていたので、順調に進むことができ、飛行機の時間にちょうど間に合いました。
 むつ市までは、下北半島に沿って北上することになります。下北半島にある東通(ひがしどおり)村は、太平洋と津軽海峡に面しています。東通の地名は、ニュースでよく聞きました。それは、日本原燃と東北電力、リサイクル燃料貯蔵、東京電力などの原子力発電所の再処理工場、備蓄センターなどあるところとして、最近注目を浴びています。道路のよく整備されて、多くの資金が投入されていることが伺われます。
 原発関連の施設などがあるため、あるいは大間原発建設の問題で、下北半島の周辺は地質を詳しく検討されるようになってきました。かつては施設近辺だった調査が、広く周辺の地質構造、特に活断層については、詳しく調べられるようになってきました。下北半島を斜めに横切る延長84kmにもなる海底断層である大陸棚外縁断層は話題になりました。
 今回は断層の話ではなく、むつ湾を囲む下北半島の地形の不思議さについてです。
 下北半島でむつ湾に面した最奥部にむつ市があります。むつ湾には、西側の夏泊半島が北につきだしているため、チョウが羽根を広げたような形をしています。夏泊半島の東を野辺地湾、西を青森湾と呼びます。むつ湾を抱くようにして下北半島があります。
 地図をみて気づくことは、下北半島が不思議な形をしていることです。マサカリのような形になっています。マサカリの刃の部分には、標高600~800mの山が連なる下北山地があります。柄の部分のむつ湾側は比較的平らな低地(田名部(たなぶ)低地と呼ばれています)なのですが、東側には吹越山地があります。マサカリの付け根、半島の根本には、小川原低地、六ヶ所低地など、沼や湖をもった沖積平野があります。このようには下北半島は、むつ湾を囲んで非常に変化に富んだ地形をもっています。
 下北半島がこのような地形をもっているのは、大地の生い立ち、つまり地質構造に由来しています。
 太平洋側の吹越山地は、新第三紀の中新世の堆積岩からできてています。新第三紀の岩石は、日本海形成に関連したグルーンタフ活動の一貫であると考えられています。この山地の地層は背斜構造をもっています。背斜とは、地層が押し縮められたとき上に凸に盛り上がってできる大きく単調な褶曲のような地質構造です。その背斜の軸がマサカリの柄の方向に伸びています。これは、日本列島が太平洋プレートに押されているために、このような構造ができます。大陸棚外縁断層も同じようなプレートの運動によってできている可能性があります。そして、新第三紀の地層を第四紀の地層が覆っています。
 また、刃と柄の交差するところである下北半島の北東端には、付加体の構成物(尻屋コンプレックスと呼ばれています)があります。この付加体のチャートからはジュラ紀、泥岩からはジュラ紀末から白亜紀初期の化石がみつかっています。チャートができ、泥岩ができた後、尻屋コンプレックスは日本列島に付加したことになります。
 田名部低地は、下北半島の北側にみられる第四紀の地層より新しいもので、田名部層と呼ばれています。この第四紀の田名部層は、むつ湾の東海岸付近に広く分布し、その厚さは50m以上も堆積している地層です。
 下北山地は、むつ湾で途切れていますが、夏泊半島を経て奥羽山脈へと続いている山脈になります。下北山地は、中生代の古い地層と新第三紀の地層があり、その上に恐山を中心とした火山活動や火山噴出物の分布しています。
 下北半島の西端は切り立った断崖の連らなる海岸で、中生代の古い岩石(基盤と呼ばれる)を取り囲むように新第三紀の岩石が分布します。
 基盤岩類は付加体の構成物や火成岩からできています。付加体の構成物であるチャートからは、三畳紀の化石が見つかっています。ですから、尻屋コンプレックスよりはやや古い付加体かもしれません。火成岩は福浦岩体と呼ばれ、花崗岩(正確には石英閃緑岩と呼ばれるもの)が地層に貫入しています。貫入の年代は、K-Ar年代測定によると1億800万年前(白亜紀の中頃)となっています。
 新第三紀の堆積後に、恐山の火山活動が起こっています。恐山は現在も活動している活火山です。恐山火山は、大きな山体をもっています。80万年前頃から火山活動は始まっています。安山岩からデイサイトのマグマの活動によるものです。火山活動によってカルデラである宇曽利(うそり)湖が形成され、火砕流なども発生しています。
 下北半島には、付加体や活火山、グルーンタフ活動、そして沖積の堆積物と、日本列島を特徴付ける地質が狭い範囲に凝縮しています。その象徴としてむつ湾のがあるのかもしれません。
 むつ湾を眺めることができる釜伏山にいくために車を走らせました。途中で何箇所か展望台がありむつ湾や下北半島の柄の部分を眺めながら山頂に向かいました。山頂付近は自衛隊の基地になっているため、厳重な警戒がされていましたが、山頂までいくことができます。ところが残念ながら、霧のため十分な展望ができませんでした。こんなこともあるのです。

・冬到来・
北海道はいち早く積雪をみました。
冷え込んではいるものの、
日が昇れば溶けてしまうでしょうから、
根雪にはならないと思います。
しかし、この積雪で、ほとんどの車は
冬タイヤに変えることになりました。
我が家の車は、昼間しか使わない車です。
例年は多くの積雪がある12月になってからの交換でしたが、
今年は11月中旬に交換です。
今年の冬は少し早いのようです。

・恐山・
恐山については、
以前のエッセイで書いたので参照してください。
恐山:異界で生まれる金鉱石(2008.10.15)
http://terra.sgu.ac.jp/geo_essay/2008/42.html
現在の恐山は、信仰の対象してだけでなく、
温泉も含めた観光としても人を集めています。
その基地としてむつ市の役割もあのでしょう。
今回訪れたのは、
9月下旬で山頂では紅葉の始まりの頃でした。
ただし、天気があまりよくなかったので
校務の余録を楽しむことは
ほとんどできませんでした。