2021年2月15日月曜日

194 キプロス:島弧のオフィオライト

 地中海の東にあるキプロス島は、地質学ではオフィオライトが有名なところです。オフィオライトの成因について大きな議論が起こった主戦場になったところでもあります。キプロスは思い入れがあるところです。


 以前、海外の学会に出席した時に、地質巡検による紹介です。「巡検」とは、地質学における観察会のことで、典型的な地点や露頭を野外で見ていくことです。地質関係の学会では、いくつかの巡検コースが設けられています。多数の地質学者が重要な露頭を見ることになるので、露頭の前でいろいろな議論が起こります。なかなか面白いものです。また、その地域を調査し研究している地質学者が案内をしてくれるので、典型的な露頭やルートを見学することができます。その地域を、非常に効率的に見ることができます。

 さて、その地は、地中海の東にあるキプロス(Cyprus)島です。巡検は、かなり前になりますが、1987年の9月から10月にかけての学会の後にでかけました。少々古い情報なので、風景や露頭の様子は変わっているかもしれませんので、ご了承下さい。

 キプロス島の南の3分の2は、キプロス共和国となっています。北の3分の1は、トルコ共和国だけが承認している独立国になっています。キプロスには、もともとギリシア系の民族が住んでいました。オスマン帝国時代に、イスラム教徒のトルコ民族が入ってきました。多数派はもともと住んでいたギリシア系の住民でした。第二次大戦後、1974年にギリシア系の住民がクーデターが起こしました。トルコはトルコ系住民を守るためにキプロスに侵攻し、以降北がトルコ系住民が、キプロス連邦トルコ人共和国を作りました。そのため、首都のニコシアの街の中に国境線が引かれ、訪れたときも銃をもった軍が警備していました。現在も分割された状態が続いています。

 さて、キプロスには、オフィオライト・コンファレンスとよばれる国際学会があり参加しました。オフィオライトとは、かつて海洋地殻を構成していた岩石が、陸地に持ち上げられたものです。

 オフィオライトは、古くは、蛇紋岩、玄武岩質の枕状熔岩、層状チャートがセットになってでることから、なんらかの成因関係があると考えられ、スタインマンの三位一体(Steinmann's trinity)と呼ばれていました。その後、海洋調査が進むにつれて、海洋地殻の実態がわかってきました。海洋地殻は下位から、カンラン岩(変質を受けると蛇紋岩となります)、斑レイ岩、玄武岩の貫入岩、玄武岩の枕状溶岩、そして深海底堆積物の珪質粘土(固化すると層状チャートになります)、大陸に近づくと砂岩泥岩の互層(タービダイト層と呼ばれています)が堆積するという層序があることがわかってきました。それが、オフィオライトの層序と一致することで、オフィオライトが過去の海洋地殻と考えられるようになりました。

 1970年代前半、オフィオライトの研究は、過去の海洋地殻の研究ともなっていました。そして、もっとも典型的な海洋地殻の特徴をもっているのが、キプロス島のトルドス・オフィオライトだとされ、当時研究が参加に進められていました。ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸が衝突し、間にあったテチス海が狭まり、その時、海洋地殻が持ち上げられたものだと説明されていました。

 ところが、1973年に都城秋穂氏が、トルドス・オフィオライトの化学組成を調べ、海洋地殻ではなく島弧の典型的な特徴を持っていることを示しました。この論文は大きな反響を呼び、多数の反論が出てきました。都城氏は、反論に答える論文をいくつも出されていました。

 学部学生のとき、この都城氏の論文を中心に、いくつもの討論の論文を読みました。この時、世界の大半の地質学が信じていた仮説に対して、ひとりで反論を示し、立ち向かった姿勢、また多くの反論に対して真摯に証拠をもって対応する態度は、科学者として素晴らしいものでした。なにより、ひとりで多数派に立ち向かう勇気に感服しました。今思えば、古い科学から新しい科学が生まれる瞬間を目撃していたことにあり、幸いでした。

 訪れたこともないキプロスやトルドスだったのですが、論文の地質図や露頭写真などでみているので、実物を見たいという気持ちはありました。そんな時、学会があり巡検に参加することができました。期待に胸が膨らんでいました。

 そんな気持ちで見た露頭は、変質や風化は受けていましたが、形成されたときの様子(初成産状といいます)はきれいに残しており、確かにオフィオライトの典型と呼ぶべき岩石群とその産状をもっています。ですから、これを海洋地殻の典型と考えるのは、よく理解できました。それまで、日本でオフィオライトを見ていたのですが、露出が悪く、露出していても変成や変形を受けているため、初成産状が残されていることはまれでした。露頭では部分的な産状を見つけ出し、それらを集めて、全体をみるという作業をしていかなければなりませんでした。ですから、キプロスの産状は羨ましいと思いました。

 地質学では産状が重要ですが、都城氏が主張した客観的で定量性のある化学組成からの検討も重要です。類似性をたくさん見つけることは確かさを増すことになりますが、仮説が完全に証明されることにはなりません。これは自然の帰納法の限界というものです。もしそんな仮説にひとつでも反例があれば、その仮説は再検討をしなければなりません。都城氏は、その反例を示したわけです。

 現在では、オフィオライトには、海嶺で形成された海洋地殻だけでなく、沈み込み帯に関連した島弧や火山弧、プルームや大陸のリフトに関連したものがあると考えられるようになってきました。つまり、オフィオライトには、海洋地殻だけでなく、多くの地質場でできる可能性がわかってきました。そして、オフィオライトの形成場を知るためには、化学組成だけでなく、それぞれの産状や形成場の違いも考慮されるようになってきました。

 キプロスは乾燥した地中海性の風景ですが、トルドス山は2000m級の山もあり、地中海ですが雪も降るようです。巡検中には、古いギリシアの遺跡もあり、観光としてもよさそうですが、当時はまだ観光化していませんでした。かなり昔の訪問でしたが、今でも記憶に残る印象深いところでした。


・ワクチン・

緊急事態宣言が10都府県で、3月7日まで延長されました。

北海道も集中対策期間を国に合わせて3月まで延長しました。

これまでの状況を見ていると、

すぐにおさまることは難しそうです。

ワクチンが承認されたので、

ワクチンの効果が期待されます。

日本では、医療関係からはじまり、

高齢者、疾患を持った人、そして市民となります。

国民全体へのワクチン接種はまだ先になりそうです。

まだ、しばらく自粛が必要でしょう。


・卒業式・

大学は、現在、授業はない時期なのですが、

2月一杯はレベル2の状態で、遠隔授業の状態となっています。

学生は学内への立入禁止となっています。

そのため、窓口業務も中止となっています。

ただし、教職員は、大学で執務もしていますし

校務も継続しています。

教員には図書館の利用が認められています。

現状であれば、卒業式はおこなう予定ですが、

どうなるのでしょうかね。