2012年6月15日金曜日

90 野幌丘陵:災害への心構え

今回は、3.11を忘れないために、私の忘備録にしようと思って書きました。同様の内容は、どこでも、だれでも、少し頑張れば手に入る情報です。そこでそれぞれの人が、自分にあった対処法を考えることが大切だと思います。このエッセイが、災害について考えてもらう一助になればと思っています。

 私の自宅は丘陵の裾野にあります。その丘陵は、野幌丘陵といいます。北海道の石狩地方の石狩平野を南北に分断するかのようにあります。ただし、北部は石狩川が横切っていますが。
 野幌丘陵は、札幌市を見下ろすようにあります。丘陵の北部は江別市、南部は北広島市、そして札幌市にも一部かかっています。丘陵の多くは、北海道立の自然公園である野幌森林公園となっています。丘陵周辺には、宅地もありますが、小中学校や大学(5つもあります)、民間や公立の研究施設、運動公園、図書館、博物館などが点在する文教地区となっています。
 私の自宅は野幌丘陵の北の裾野にあり、勤務地の大学は中央部の西側の裾野にあります。私は、毎日、丘陵の西側をトラバースするように、3.5kmほどの道のりを、歩いて通っています。
 丘陵の西の裾野ですから、西向きの浸食跡や河川がいくつもでき、緩やかなうねりを形成しています。トラバースをしていても、登り下りがみえます。歩いていると緩やかな傾斜は気になりませんが、自転車だと体感できます。かつては自転車で通勤をしていたので、登りで疲れ、下りで楽したことを思い出します。
 丘陵とは、谷との高低差100m以下、標高も300m以下で、山地よりも小さく台地より大きな地形で、遠くから眺めると平坦な高まりにみえます。野幌丘陵は標高100mに満たない低いものですが、高まりを感じることできます。例えば、丘陵の開けた高まり(高い建物など)から低地を眺めると、見下ろした景観が広がります。また、低地側から眺めると、盛り上がった丘陵のシルエットがよくみえます。これは、周辺に平らな低地帯(石狩低地、標高数mほど)が、ひろがっているためでしょう。
 野幌丘陵を詳しく見ると、裾野は東側が急傾斜で険しくなっており、西側は緩傾斜でうねりのある地形になっています。このような地形の特徴は、丘陵の北部でよくみられ、南部では支笏の山なみに連続するため、不明瞭になります。
 丘陵を構成している地質は、土砂がたまった地層です。ただし、そのほとんどは、まだ固まっていない堆積物からできています。赤松ほか(1981)の論文によれば、下から第四紀更新世中期の竹山礫層(約20万年前)、更新世後期のもみじ台層(約12万年前)、小野幌層(約10万年前)、元野幌層(約4万年前)、更新世中期の厚別砂礫層・広島砂礫層(約3万年前)と呼ばれる地層が重なっているとされています。最初は海でたまった地層(海成層)で、後には湿地帯でたまった地層へと変化します。いずれの地層も新しい時代にたまった堆積物です。
 その下には、古い時代(白亜紀からネオオジン(新第三紀とよばれていたもの))の岩石類(基盤岩類とよばれます)があります。新しい地層の下にある基盤岩類の存在は、物理的探査(重力探査、地震探査、ボーリング)によって確認されています。
 基盤岩類の上に、新しい時代の堆積物が溜まっています。低地帯も似た堆積物からできていて、野幌丘陵はそれらの地層が盛り上がってできたと考えれます。盛り上がった原因は、地層の曲がりと断層によるものです。
 地層の曲がりとは、褶曲(しゅうきょく)とよばれます。幾重にも平らに溜まった地層が、両側から押されると、波打つように曲がっていきます。そして時には割れることもあります。北海道は、太平洋プレートの沈み込みによって、常に圧縮されている場でもあります。ですから、褶曲ができやすくなっています。
 盛り上がってできた褶曲(背斜)が野幌丘陵にあたります。褶曲の軸は、南北にのびています。ただし、背斜構造がみられるのは丘陵の北部で、南部はよくわかっていません。
 また、丘陵の東側には、断層があることがわかっています。野幌丘陵の東の端にそって、ほぼ南北に走る4kmほどの断層が東に傾いて存在しています。野幌丘陵断層と呼ばれています。こんな新しい地層を切るような断層は活断層になります。一部、断層が見えているところがあるので、その存在は確認されています。丘陵の東側の斜面が急なのは、断層によって切れているためだったのです。
 野幌丘陵の地層や背斜構造や断層は、当別の山地(樺戸山地南端)にまで連続しています。ただし、上でも述べましたが、丘陵の南の方は支笏の山地に連続し、火山灰が覆っているので、よくわからなくなっています。
 活断層があれば、地震が心配になります。2010年に10月20日と12月2日には、札幌で地震が起こっています。この地震は、札幌の直下型で、震度はあまり大きくありません(震度3)でした。この地震は、札幌市内の地下にある(伏在(ふくざい)といいます)する活断層の一つ(月寒断層と呼ばれています)が活動したと考えられています。
 野幌丘陵断層の活動記録は、今のところわかっていません。ですから、いつどの程度の規模で動くかは、断層の評価になってきます。北海道の防災会議によって2008年と2011年(3月)に被害想定がなされています。2011年3月になされたも推定ですが、これは東日本大震災が起こる前のものです。その想定によると、計算に用いられたのは、上端が深さ6km、長さ32km幅22kmで東に45度傾斜した断層が活動して、マグニチュード7.5、震度7の地震を起こしたというものです。その結果、木造住家全壊は最大17,549棟で、最小が17,068棟、死傷者は、最大で23,264名、最小で22,898名という非常に甚大な被害が予想されています。
 少々不安になる数字です。我が家は、背斜軸の上、断層の西側にあたります。私は、そのような地に住み、暮らしていることになります。幸い、海からは遠いので津波への心配は少ないのですが、直下型の地震は、つねに考慮しておく必要があります。
 自宅での対処は、耐震性や家具などの倒壊を最小限にすること、ライフラインの断絶に備えておくしかありません。
 火災や盗難などにには、以前に備えをしました。昨年冬に、我が家の書棚をすべて作り付けにする工事をしてもらい、倒壊の危険を減らしました。少々お金がかかりましたが、目先の出費より生命を守ることが優先です。もちろん快適さも同時に満たしてもらっています。
 今は、ライフライン、特に電気はどうしようかと悩んでいます。ソーラーパネルをつけたいのですが、なかなかまだ効率がよくなりません。パネルとその施工工事は、大きな出費となるので、おいおい進めていこうかと考えています。少しずつ備えていくしかありません。
 私のことばかりを紹介しましたが、一度このようなことを考えてみてはどうでしょうか。防災、減災は、起こってしまってからでは手遅れです。3.11の教訓を忘れないためにも、自然災害への個人での備えをすすめましょう。ここで消化した、活断層、その被害予想などは、国や都道府県、市町村がハザードマップや被害想定、防災案を策定して、公開しています。読者の方も簡単に手に入りますから、それを見ながら、自分が住んでいるところを、もう少しよく知っておくことは必要ではないでしょうか。今回のエッセイがそのためになればと思っています。

・賢くなれ・
3.11以降、地震や津波に対する
今までの知識や想定は
大きな見直しが迫られています。
早急な見直しも、必要なのですが、
根本的な見直しも、必要かもしれません。
根本的な見直しとは、防災や災害に対する考え方自体です。
例えば、想定とは前提があり、
その前提でのみ適用可能なので、
想定外を想定して対処を考えるべきでしょう。
また、科学は、まだまだ無力であるので
想定外が当たり前と心得るべきでしょう。
そのような立場で、防災案を考えておく必要があります。
人は賢いのですから、それぞれが独自の判断を養うべきでしょう。
そんことを、最近、考えています。

・青森出張・
14日と15日は青森に出張です。
これは校務なのですが、
最近、大学の授業や校務が忙しく、
外に出る機会が減って来ました。
出るとしても気が抜けない落ち着かない外出ばかりです。
毎年9月にいってる地質調査も
今回はどうなるかわからない状態です。
なんとなく世知辛い世になって大変で
心が落ち着きません。
短時間の出張が癒してくれれば幸いなのですが。