2016年12月15日木曜日

144 熊野酸性岩類:ジオパークの地

 熊野は和歌山と三重にまたがっています。熊野には奥深い山々が広がっています。そこには酸性火成岩が分布しています。島弧のマグマによって形成されたものです。しかし、形成のメカニズムは、まだ十分に解明されていません。

 熊野は、紀伊半島の南部の地域で、かつては牟婁(むろ)郡と呼ばれていました。牟婁郡は、東西南北に4つに分けられ、和歌山県には西牟婁郡と東牟婁郡が、三重県には北牟婁郡と南牟婁郡があります。
 熊野は、地質学的には付加体から構成されていますが、ほかにも列島固有(島弧といいます)のマグマの活動の多様性を知る上でも重要な地域です。島弧の火成活動は、海洋プレートの沈み込みによって引き起こされます。その典型が、東北日本、伊豆-小笠原諸島などの火山列となります。
 西日本(地質学では西南日本と呼びます)では、山陰地方と九州に火山は存在しているのですが、四国や近畿には古い時代に活動した火山はあるのですが、典型的な島弧の活火山はありません。
 西南日本の本来なら火山列あっていいところに、マグマの活動は起こっていました。潮岬(南紀)、足摺岬(四国)の海沿いから、海から少し離れた内陸でも、火成岩が点々と分布しています。火山岩から深成岩が分布しています。噴出したものもありますが、多くは地下でそれほど深くないところに貫入したマグマが固まった岩石が大半です。そして、より内陸側には深成岩が分布しています。
 ただし、これらの火成岩類は少々時代が古い時代の活動になります。時間が立てば、険しい山では、地表あったかもしれないマグマによる火山活動が、侵食を受けてなくなってしまった可能性があります。地下で活動したマグマでも、時間が立てば侵食で地表に現れることがあります。深成岩は、マグマが深いところでゆっくりと冷え固まったものです。深成岩が出ている場とは、かつて地下だったところを見ていることになります。
 熊野では深成岩は、より内陸にあるので、侵食が進んで深部のものが露出しているようです。少し海側には、地下ですが深成岩より浅いところで固まった貫入岩類が多くなります。
 紀伊山地には火成岩体が分布しているのですが、深成岩を大峰花崗岩類、海側のものは熊野酸性岩類と呼ばれています。紀伊山地の奥には、大峰花崗岩類が分布しています。
 酸性岩というのは、マグマの種類を示すもので、珪酸の多いがものをいいます。深成岩でいうと花崗岩となり火山岩でいうとデイサイトや流紋岩になります。これらの酸性火山岩は、島弧でもよく見られるものです。
 熊野酸性岩類は1400万年前に活動した花崗岩マグマの活動によるものです。紀伊半島の東部、和歌山から三重にかけて広く分布しています。この地域は、沈み込みに伴う付加体が形成された後、列島と沈み込み帯の間(前弧海盆と呼ばれている)にある、陸からの堆積物がたまるところになっていました。そこに、沈み込みに伴って、マグマの活動が起こりました。それが熊野酸性岩類です。
 熊野酸性岩類は、現在の沈み込みの配置から考えると、マグマの活動の場が、少々海に近すぎるという不思議が点があります。熊野酸性岩類には、同時代に活動してた古座川弧状岩脈と呼ばれる、もっと海に近い貫入岩類が活動しています。熊野酸性岩類よりもう少し古い1500万年前には、潮岬火成複合岩類が、もっと海側で活動しています。これらの火成岩類は、現在の島弧の火成作用を理解する上でも、重要な役割を持っているはずです。しかし、その解明はまだこれからです。
 熊野は山が奥深いので、海岸沿い以外は、川沿いにある道路からのアプローチが主となります。ですから、熊野川沿いで、これらの熊野酸性岩類が分布していますので、見て回ることにしました。それらのいくつかみることが今回の目的のひとつでした。
 熊野は宗教的な聖地として、世界遺産に登録されています。ほかにも、2014年8月に日本ジオパークとしても認定されていますので、地質学でも有名なところであります。
 世界遺産は、いろいろな遺産を保護することが主目的で、保護された遺産を観光資源としていますが、保護が最優先されます。ジオパークは、地質学的な特徴をもった地域の自然を、地域の文化や習慣も含めて、保全しながらも「活用」していくものです。活用の方法として、教育への利用、地質を楽しむ旅(ジオツーリズム)なども重要な要素としています。ジオパークは、保全(conservation)、教育(education)、ジオツーリズム(geotourism)を重視しています。それら3つの行うために、地域の人々が重要な役割を担いうことになります。ですからジオパークは世界遺産とは少々目的も手段も違っていることになります。
 ジオパークでは地質のポイント(ジオサイトと呼ばれる)が設定され、解説パネルなどが設置されるようになりますので歓迎です。露頭や景観の地質の説明を読みながら、見学することができるので、利用させてもらっています。
 熊野本宮大社から熊野川沿いの国道168号にも、いくつか有名なジオサイトがあるのですが、新宮市相賀で高田川が合流するところで、川の対岸(三重県南牟婁郡紀宝町浅里)に大きな岩の崖が見えてきます。そこには、見事な柱状節理が発達した花崗岩類が見えます。こんなに立派な崖があるのですが、対岸は、三重県なのでジオサイトになっていません。残念ですが。

・縛られずに・
9月にいった南紀の調査では、
いくつもの地点を見てきたのですが、
全部を紹介する前に、2016年が終わってしまいました。
まあ、興味の向くままで書いていくので、
どのような地域を取り上げるかは、
その月の執筆にならなければわかりません。
今回のように大きな地域を漠然と取り上げたり、
小さな地質、地理的な素材を取り上げることもあります。
何者、何事にも縛られずに
エッセイも来年も継続していきたいと思っています。

・残る自然・
熊野は、紀伊山地にあります。
紀伊山地は山が深く、河川も多数ありますが、
開析が進んでいるので、深い谷が多く、平地が少なく、
海岸沿いに小さな平地が点々と存在します。
小さな町が、そこに形成されています。
ただ、中央構造線に沿って流れる
紀の川には平地が広がっていますが。
山が海にまで迫っているので、
熊野は、開発が遅れていました。
そのために、自然が今に残されているのでしょう。