2018年4月15日日曜日

160 瀞:記憶のお気に入りへ

 熊野川の支流、北山川は深い山あいを流れる川で、紀伊山地の奥深くまで入り込んでいます。かつては木材の筏が、現在ではウオータージェットが往来しています。そんな北山川の奥に瀞があります。

 私の野外調査は、テーマに合った地域、あるいは地層や岩石を選んで、典型的な露頭を見つけ、そこで詳細な観察をしていきます。このような手法で取り組んだのは、黒瀬川構造帯という不思議な岩石群ですが、なかなかいい露頭がないので、現在中断しています。次のテーマは、タービダイトと呼ばれる付加体でよく見られる地層を、対照になる沿岸の堆積物を四国と九州で調査しました。現在は層状チャートを中心にして調査を進めており、四国が一段落したので紀伊半島と、山陰を中心とした中国地方で調査を進めています。そして北海道も加え、できれば東北へも広げていければと思っています。もちろん、その地を訪れたら、次のテーマのメランジュや黒瀬川構造帯なども、一緒に見ていくようにしています。
 各地を巡っていくと、テーマに相応しい露頭だけでなく、気に入った地形や場所、露頭などもできてきます。そんなところへは、何度も訪れてしまいます。小さな露頭であっても、何度も通っていきますが、その度に新しい発見、感動がえられます。
 紀伊半島でも、そんな地がいくつかできました。その一つに瀞(どろ)があります。瀞は2度目で、2017年1月のエッセイでも取り上げました。前回訪れたのは、2016年夏でした。その時は、瀞までで、それより奥には進む予定をしていませんでした。2度目の2017年9月には、瀞まで川を船で遡上して、道路からも瀞へいくのと、2つのルートで地質を見ました。
 船は、熊野川と北山川の合流点の少し下流の志古が、発着所になります。ウォータジョットという高速船で2時間ほどかけて、川沿いの景観の変化や露頭を見学しながら、遡っていきます。砂岩泥岩互層の中を川が流れています。上流に進むに連れて、地形が険しくなってきます。その変化はなかなか面白いものでした。高速船で移動が早いため、つぎつぎと現れる露頭、地形の変化を楽しむことができます。船がもっとも遡ったところが瀞になります。瀞では、20分ほどの休憩時間があります。川原には小さな露店とトイレがありました。この休憩場所の川原が、瀞ホテルの真下にあたります。休息後、同じコースをウォータジョットで志古まで戻りました。
 その日は天気もよく、また川面すれすれから見る露頭はなかなか見ごたえがありました。上流に行くにつれて、地層が箱状に侵食されてゴージュになっていきます。そんなゴージュの中を船で遡ることになります。
 その後、車で169号線を遡っていきました。このルートは以前も来たことがあり、トンネルや拡張など道路が整備されて、車で走りやすいルートです。途中で昼食をとり、瀞へ向かいました。今回は、川と道の両方から、北山川から眺める紀伊山地が堪能できました。
 今回は瀞にある瀞ホテルに立ち寄りました。1917(大正6)年、木材を切り出し、北山川の筏にして流す人たち(筏師)の宿として開業したそうです。その後招仙閣と改名し、昭和初期に瀞ホテルという名称となったそうです。現在の建物にも、招仙閣という看板がかかっています。さらに、瀞ホテルという看板もかけられています。瀞ホテルは、だいぶ前に宿泊施設としては営業を終わったのですが、2013年6月に食堂と喫茶の瀞ホテルとして営業を再開していました。前回、私がいったときには営業を終わっていたのですが、今回は昼すぎだったので、営業をしていました。
 昼食は終わっていたので、ここではコーヒーだけを飲みました。すごく混んでいて、1時間ほど待つとのことでした。私は、基本的には行列までして店n入るのは嫌で、いつも敬遠しています。しかし今回だけは、瀞の景色が素晴らしいので、外でうろうろしながら待つことができました。
 瀞ホテルでは、1階部分を使って営業しているのですが、かつて宿として使っていた2階も見学することができます。店の部分だけでなく、瀞ホテルの建物全体、そして立地がなかなかいい空間で、そこにいるとなかなかいい時間を過ごすことができます。そんな心地よい時間と空間が、私には良い記憶となっています。前回は、閉まっていた店ですが、今回は、行列までして入りたいと思えるような場所となりました。
 さて、この北山川ですが、熊野川の合流部から東に向かって上流になります。少し妙な流れかたに思えました。
 紀伊山地は東西に山並みがあるので、川は山稜から南に流れていくるはずです。ところがこの北山川は、東から西に向かって流れています。もちろん真っ直ぐではなく曲がりくねっていますが、基本的に東西方向の流れとなっています。そこに妙さを感じました。
 さらに、川を遡って見えていた石は、砂岩泥岩の互層でした。列島の海側に堆積したもので、前弧海盆堆積物と呼ばれ、熊野層群となります。この地層はそれほど硬くないので、侵食を受けて削られやすいはずです。瀞付近では、何故か険しい地形なっています。これも妙です。
 南北に流れるはずの川は東西に流れ、柔らかいはずの地層が険しい地形となっているのです。
 その答えは、北山川沿いでは見ることのない、熊野酸性岩類でした。北山川より南側には、熊野酸性岩類が広く分布しています。それらを回り込むように北山川は流れています。しかし、北山川沿いには熊野酸性岩類は分布しています。地質図をみると熊野酸性岩類の周辺には、柔らかいはずの砂岩泥岩が分布しています。ただし、これらの堆積岩は、花崗岩類に貫入によって、熱の変成を受けて固くなっています。このような熱変成により固くなったものをフォルンフェルスといいます。
 川面から地層を見ながら、妙に思えたものは、実はこの地域の地質が生み出したものだったのです。瀞は、そんな妙さもお気に入りとなった理由でしょうか。ただ、人が多いので私は少々疲れてしまいますが。

・ジオパーク・
ジオパークが各地にできてきたので、
その地域の典型的な地質をみるのに、
情報が増えたので便利になってきました。
南紀熊野ジオパークでも情報は
大いに活用させていただきました。
見たい露頭すべてが、ジオパークの地域、
見学ポイント(ジオサイトと呼ばれています)ではないので、
自力でいろいろ調べて、露頭を見つけていいくことになります。
いい露頭が見つからないこともあります。
そんな中で、素晴らしい露頭や景観にあうと、
記憶のお気に入りに登録されます。

・戸惑いと期待・
新学期の授業がはじまり、
1週間がたちました。早いものですね。
1年生は、戸惑いもあったろうし、
期待感もあったでしょう。
それらの戸惑いは解消されたでしょうか。
期待は満たされたでしょうか。
たぶん場面場面で両方を味わっていることでしょう。
できれは、合わせてプラスになっていればと思っています。
教員も、戸惑いも期待も与える存在でしょう。
心して接しなければなりませんね。